ハハ・ポツンと秘密の部屋

 開かずの扉といえば、広い学校にあったり、蔵や離れにあるものと相場が決まっていますが、
僕の部屋の隣にも「開かずの扉」があります。
正確には、ちょくちょく開いているのですが、僕だけは「入ってはいけない」と小さい頃からいわれていました。
僕は好奇心旺盛で活発な少年でしたが、言いつけはしっかり守っていました。
たまに母が秘密の部屋に入り込んで、何時間も出てこないことは気になっていましたが、
僕が約束を破って部屋に入ったことはなかったのです。

 元気だけど言いつけをきちんと守っていた僕も、反抗期になりました。
今日はついに、言いつけを破って部屋に入ろうとしているところです。
昨日も母とケンカをしました。ケンカのあと、母は秘密の部屋に入って三時間出てきませんでした。

 この部屋には何を隠しているんだろう。僕はいい子でいる必要もないのだから。
約束なんて破るためにあるんだ。
僕は勉強も工作も器用にこなすほうなので、カギは簡単にあけることが出来ました。

 なんだ、普通の部屋だ。僕はがっかりしました。
カーテンはしまっていて、座卓が一つ、クッションが二つあり、背丈より高い本棚が四つ、
変わったところといえば……本棚にはたくさんの本がつまっていたことぐらいでしょうか。


 でも、本棚の本をよく見た時、僕は体が動かなくなりました。

好奇心旺盛なこどもに育てる本
活発で元気なこどもを育てる
いいつけを守る脳をつくるのはおかあさんだ
こどもが進んで勉強をするようになる本
こどもと作ろう楽しい工作――心を育てる――

全てが育児・子育てに関連した本でした。
どの本を見ても、自分の性格に思い当たります。
手にとって詳しく見れば見るほど、本には母の行動がそのままかかれています。
僕の性格は計画されたものだった。
僕の性格は自分のものだと思っていたけど、誘導された結果だった。

 僕が知らないうちに誘導されて、いつのまにか母の思うとおりのこどもになっていたんだ。
座卓の上に新しい本を見つけて、恐る恐る手にとりました。
「反抗期のこどもをおとなしくさせる44の方法――暴れるこどもが犯罪に走る――」
ページをめくっていくと、しおりが挟まっていました。

『反抗がすぎるこどもは、近いうちに重大な事件を起こす可能性があります。
そうならないうちに手を打ちましょう。△△という薬を飲ませれば、こどもの脳に作用しておとなしくさせることができます。
反抗して飲みそうにない場合は、細かく砕いてプリンに混ぜると良く食べます。薬を手に入れる方法は……』

 そんな、バカな。
僕が本の内容をバカにして笑うと、台所から母の声が聞こえました。
「プリンを作ったから、こっちにいらっしゃい。」


end


(c)AchiFujimura 2003/2/11