「砂ってなんてカワイソウなんだろう」

 学生服を着た少年、ナオくんはぼたぼたと涙を地面にこぼしました。
学校の階段に座って、一番下の段に少したまった砂を見つめていたときのことです。
落ちた涙が乾いた砂を固めて、シュゥと音を立てて縮んでいきます。

 「君はなんで私にカワイソウだと言うんだ」
砂から声が聞こえました。

「だって、かわいそうだよ。君たちも元は大きな岩だったのに、今は別れてこんなに小さな砂粒だ。
自分が壊れて、ばらばらになったときはどんなにか悲しかっただろうね。
痛くって泣いたんだろうね」
ナオくんの涙はどんどんあふれます。勝手に、この砂が岩だったときのことを思って涙が出るのです。
涙が同じ場所へ何度も落ちたので、水溜りになって、砂がぷわぷわと泳いでいます。

「痛くはなかったよ。でも、悲しかったな。最初は岩で、崩れて石になり、半分になって、最後には砂になったんだよ。
砂になってからもドンドン小さく別れ続けている」
砂がゆっくりと、ナオくんに聞こえるように語ります。
ナオくんは涙を止めて、話を聞いていました。
「あのね、僕、今日卒業式だったんだ。大好きな学校だったし、クラスも大好きだったのに。
今日で皆離れ離れになるんだよ。それがまだ信じられないし、怖いんだ」

砂は少しの間、なにも話しませんでした。
ナオくんは、顔をあげて遠くのほうを見ています。学校正面の大きな階段から、学校と一緒に校門を見つめているようです。

「最初、私に他の砂が混じってきたときは驚いたな。不安と、信じられない気持でいっぱいだった。
しかし、風に吹かれて他の砂と触れ合っているうちに、私は皆と混じり合うことの幸せに気がついたんだ」
ナオくんは、また砂のほうを見つめました。
どの砂の声なのかはちっともわかりません。他の砂は黙っているのか、語れないのか、それすらわからないのです。

「私が岩でも、小さな砂粒に分かれても、なんだ みんな同じ地球に変わりないと気がついたんだ。
いつでもひとつだったんだなってわかったから、違うものと混じることが楽しみになったよ」

「そうか、結局僕は独つで、最初から一つだったんだね」
ナオくんが独り言のようにつぶやきました。もう砂は何も語りませんでした。
ナオくんは立ち上がり、ズボンの砂をきれいに叩き落とすと、走って家へ帰りました。



end


(c)AchiFujimura 2003/4/3