あの世へ行こう!

 三ヵ月後にこの地球へ巨大隕石が落ちてくることがわかって、世界中がパニックに陥りました。
ロケットは数台あるけど、数十人が宇宙へ逃げたところでどうしようもなく、
「あの隕石がくるのか」と、肉眼でも見えるほど接近した隕石を毎日眺めながら、人々は暮らしていたのです。

 そんなある日、一人の男性が政府に提案を出しました。
「私の友人の息子が超能力者で、人をあの世に送ることが出来るんです。私もあの世に行ってきましたが、
花が咲き乱れるすばらしい場所でしたよ。川さえ渡らなければ、いつでも戻ってこれるんです。
少年にお願いして、あの世へ人類全員で移動するってのはどうでしょうか」

 普通に考えれば信じられない話でしたが、一週間の検証の結果、確かにあの世が存在して、
行って帰ってこられることが判明したので、
その十三歳の少年を東京へ呼び出し、世界人類をあの世へ送ってくれるように依頼しました。

 少年は少し考えているようでしたが、
「世界人類がそれで救われるんだから、協力します」
と、政府の申し出を快諾しました。
その頃、あの世では花が咲き乱れ、さわやかな風が吹いていました。

 一度に全員を送るのは難しいので、少年の超能力が及ぶ範囲で人間を集めて、少しずつあの世へ送り始めました。
飛行機で世界を飛び回り、世界中の人をあの世に送り込んだのです。
人々は少年の超能力で、あっという間に消えてあの世へ行ってしまうのです。
その頃、あの世では花が元気をなくしており、風はどこかもの寂しそうでした。

 世界人類と、動物たちをあらかたあの世へ送り込んだことを確認したので、とうとう最後に残った人々も、
あの世に行くことになりました。
世界中が静まり返り、広場がさらに広くかんじられます。

「たいへんお疲れ様でした。君のおかげで、私たち人類はあと三日での滅亡をなんとかまぬがれました。
私たちを送り込んでくださったら、君も直ぐにあの世へ来てください」
最後まで残っていた三人の大臣と学者が、少年に声をかけました。少年は力なく笑って、
「僕自身は、あの世へいけないんです。人を送り込むことはできるんですが、僕は僕の超能力の及ばない範囲にいるようなのです」
「なんだって! 」
「皆さん、あの世へ行ったら、先にあの世へ行っている僕の家族によろしくお願いします。それでは、さようなら」
大臣たちはなにか叫んでいましたが、直ぐに消えてあの世へと旅立ちました。

 少年は仕事をやり終えて、ようやくゆっくり眠ることが出来るのです。
地球の最後を迎えるためにも、今は眠っておこう……
その頃、あの世では花がつぼみのように閉じたまま、そよそよと風に揺られていました。

 何時間眠ったのでしょう、少年が目を覚ますと、そこにはあの世へ送ったはずの人々がたくさんいたのです。
隕石はすぐそこまで来ているようでした。
「みんな、どうして」
「大臣達から聞いたんだ、きみがあの世にこられないのならば、私たちもこの世で地球と運命をともにするよ」
少年の両親もそこにいました。
「ばか、ばか」
疲れ果てた少年は、また目を閉じて眠りに落ちました。
母親が少年の頭をそっと抱きました。

 隕石がやってきます。その熱で地球の表面はあっという間に燃え、あの世から戻ってきてしまった人々は、
祈りの中で死んでいきました。

 その頃、あの世では花々は闇に飲み込まれ、風や光などは存在を消し、あの世にいる人々だけが宙に浮きながら
叫びを響かせていました。
あの世は少年の内宇宙だったのです。少年の死によって、その超能力も意識も及ばなくなった「あの世」では、
すべての存在が無になってしまったのです。

end

(c)AchiFujimura StudioBerry 2005/6/11