災害時用食料貯蔵庫

 むかし、むかし、ある星に、滅亡の時がやってきたよ。
大変強い炎が星中を焼き尽くし、七日間のあいだ燃え続けたんだよ。
そんな中でも、生き残った人たちが大勢いたんだ。
八日目に雨が降って、とうとう火が消えたもので、みんな歩き出したんだ。

 ちいさな星の、ある場所に、大きな黒い塔のようなものだけが残っていて、
周りのものはみんな燃えてしまい、塔だけが遠くからも良く見えたから、
みんなは自然とそこへ集まってきた。

 雨が塔についたすすを洗い流したら、なんと透明な塔の中にはぎっしりと
食べ物が詰まっていたもんだから、みんなはたいそう喜んで、手をつないでぐるぐると回ったよ。
だけどみんなはすぐに、また落ち込んだ。この塔には入り口がなかったんだ。

 何度もぐるぐる回ったけど、何処からも入れない。
 上は限りなく空へ続いている。
 中にはぎっしりと食料が詰まってる。
 地面を掘っても同じようにどこまでも食料が詰まってる。

 この塔を非常時に空けることができる人は、あの炎の中で死んでしまったんだよ。
もう誰もこの塔を開けられない。飢えている人がこんなにいるのに。
あきらめずにぐるぐる回り続ける人がたくさんいて、雨の後で生えてきた草の芽を
摘んでは食べて、また食料の塔を見上げて、

「あしたこそは あの食料が 食べられるかもしれない」

 それだけを希望にして、ぐるぐる回り続けたというよ。
ある日、少年が
「僕は新しい食料を探しに行く。この塔は開かない」
そう言って、塔から離れて歩き出したよ。

 みんなも「それがいいかもしれない」と思ったけど、
明日こそこの塔が開いたら、それだけで助かるんだと思うと、
少年以外は誰も塔から離れられなかったんだよ。


 結局塔は開くことが無くって、
塔はいまもその星で非常時を待って立ち尽くしているそうだけど、
少年も結局 旅の途中で飢えて死んでしまったというよ。


むかし、むかしのお話だよ。


end

(c)AchiFujimura StudioBerry 2006/9/10


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