飼い犬をうめるのは

ついにナエは見つけました。
人も来ないような川辺で。
ずっと前からさがしていた、飼い犬のゴロです。

でも、もう死んでいました。白骨になっていました。
どうしてゴロだとわかったかというと、
ナエが買ってあげた首輪がおちていたからです。

「ゴロ。かわいそうに」
まだ8歳のナエですが、ゴロは小さい頃から一緒にいたたいせつな友達です。
頭蓋骨をそっと抱き上げました。片手には首輪を握り締めています。
「しんじゃったのね。どこにいったかとおもったら、しんじゃっていたのね。」
ナエは泣きました。これじゃぁゴロがあんまりにもかわいそうです。
おなかもすいただろうに。くるしかっただろうに。

そうだ。せめて、お墓を作ってあげよう。
ナエはそう思い付きました。
穴を掘って、ここに埋めよう。

……でも、待って、それだとゴロがかわいそう。
こんな誰も来ないところにうめちゃったら、寂しいかもしれない。
でも、人のおうちにうめるわけにもいかないし、
私のおうちはマンションだからお庭がないし。
それに暗い地面の中で眠るのなんてかわいそうだよ。

「それじゃぁ、川にながしてあげようかな。」
だめだめ、どっかでダムや水門に引っかかったらかわいそう。
沈んじゃってお魚のおうちになっちゃうかもしれない。
ナエは、ゴロの頭の骨を見つめました。
この、ゴロの目のあった穴からお魚が出たり入ったりするのを思うと、
震えてしまうのです。

そうだ、あそこに連れていってあげよう!
ナエは思い付きました。
ナエだけの、秘密の場所。たかいたかい杉の木。
よく、ゴロと一緒に行きました。
ゴロが山を駆け回ってる間、ナエは木に登って周りを見渡すのです。
枝が多くて登りやすいのです。

ナエは傘を一本、家から取ってくると急いで杉の木へむかいました。
ゴロは頭の骨だけをナエにかかえられていました。
他の骨は、川辺にうめておきました。

リュックサックに頭の骨をいれて、ナエはせっせと木を登りました。
相変らず登りやすい木です。なれた動きで、ナエは登って行きました。
途中でちょっと怖くなりました。
本当は一番上まで登ったことが無いのです。

でも、ようやくてっぺんまでたどり着きました。へとへとで、手も足もがくがくします。
てっぺんからの眺めはとても素敵でした。
ゴロの嬉しそうな鳴き声が聞えた気がしました。

さぁ、ここにゴロを置いてあげるね。
てっぺんの枝に、ゴロの頭を置きました。
そして、頭をかばうように傘をさしました。
これで雨が降ってもだいじょうぶ。

ナエは安心しました。
ここから私たちの町をゴロがみていることができる。
うれしい。

あっ。

それは突然の出来事でした。
ナエがバランスを崩したのです。
バキバキっと枝の折れる音がして、木から落ちていくのです。
枝が折れた時に、ゴロの頭も枝から落ちました。
枝にぶつかりながら、すごい速さで下に落ちて行きます。

ドシンと大きな音がして…。
静かになりました。
ゴロの頭だけが、ころころと転がって山を降りて行きます。

まるで、ナエの居場所を、誰かに伝えに行くように。

(c)AchiFujimura



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