モズとカッコウ

 たった一つだけ特殊能力がいただける事になったので、鳥好きの私は迷わず
「鳥と話が出来る能力」を選びました。
これで鳥と会話できる。そう思うとわくわくして、朝も夜も森に出かけてしまうのでした。

 ところで私は、ずっと鳥に聞いてみたいと思っていたことがありました。
鳥好きでなくても知っている人は多いでしょうが、モズとカッコウのことです。
カッコウは托卵する鳥です。つまり、モズなどの巣に卵をうみつけ、モズの子どもを排除し、
モズにカッコウのヒナを育てさせるのです。
 この話を聞いたら大体の人間が「モズはかわいそう」「カッコウがひどい」と感想をのべ、
カッコウはその瞬間から嫌われ者になってしまうのです。

 私はモズの巣を見つけて、そっと近寄りました。
「こんにちは」静かに声をかけると、卵の上に乗っている母鳥がこちらをみました。
「人間が話し掛けてくることがあるなんて。どうしてアナタと話が出来るのかしら」
「私は特別に、鳥とお話が出来るのです」

「卵を温めているのですか?」
「そう、もう少ししたらご飯を食べに行くけど」
「早く子ども達が卵から出てくるといいですね」
私が笑顔でモズに言うと、モズの母鳥はクチバシをあけて溜息をつきました。
「奇跡が起きないのよ、私の卵たちはひとつにならないの、神に見放された家族なの」
「卵がひとつに? 神に見放された?」私は気になったキーワードを繰り返しました。

「そうよ……奇跡が起きると卵たちはひとつになって、神の子が生まれるの、
それはモズにとって夢であって、神の子を育てるのは喜びなの」

 その後食事に出かけると母鳥が言うので、その日は「また来るね」とだけ告げて巣を後にしました。
数日後モズの巣へ行ってみると、卵に変化があるのです。
モズにはわからないでしょうけど、あれはカッコウの卵です。ああ、なにかの隙に生みつけられたんだ。
私にはどうする事も出来ません。このままだとモズの子どもはカッコウの子どもに殺されるでしょうが、
だからといって私がカッコウの卵をつぶす権利はありません。
既にひとつの卵はカッコウに持ち去られたあとでした。

 カッコウの卵を見てからまた何日も過ぎて、私がモズの巣へひさしぶりに訪れると、
私を待っていてくれたという母鳥が嬉しそうに鳴き声をあげました。
「みて! 私の卵は神の子になったのよ! 卵たちはひとつになって、こんなに大きな子どもになったの」
モズの子どもなんて一羽もいません。巣の下にそれらしい死骸が転がっていますが母鳥は知らないようです。
大きな子どもは間違いなくカッコウの子どもでした。私のことをにらむように見つめます。

「私達の夢はかなったわ。大きく育てと念ずれば、卵はひとつになって、強くて大きな子どもが育つの。
神様は私たちを見捨てなかったのよ」
私はなにか言おうかと思いましたが、モズの母鳥を見ているとなにも言葉が出ませんでした。

 三週間も過ぎれば巣立ちです。
カッコウ とまだ不器用に鳴くヒナをみて、ようやく一言だけ
「鳴き声がお母さんと違うねえ」と私がつぶやけば
「神の声なのよ。美しいでしょう、この竹林で乾いた竹を打つようなすんだ音」
と目をキラキラさせて言うのです。

 私はモズのお母さんが不憫で仕方ありませんでした。
カッコウの子どもを自分の子どもだと信じている。カッコウも好きだった私ですが、
今回ばかりはカッコウが悪に思えてしまいます。カッコウの話も聞いてみることにしました。
 私はモズの巣を離れて、隣の森へと入りました。カッコウの声を頼りに近寄ります。
「カッコウ、君はモズに卵を托して心は痛まないのか」
われながらどうしようもない質問だと思いつつも、姿の見えないカッコウへ問い掛けました。

「あのねえ、私はモズのお母さん大好きなのよ」
「だったら、なんでモズの子どもを殺した」
「それは本能だから仕方ないじゃない」
「それでは、せめて もう托卵をやめたらどうなんだ」
「やめないわよ、だってモズのお母さんに育ててもらったこと 私すごくシアワセに思ってるんだモノ、
自分の子どもだってシアワセになって欲しいモノ、だからモズのお母さんに預けるんだモン……」


 私は何羽ものモズとカッコウに出会い話を聞きましたが、
結局 モズは「神の子」カッコウを育てたがっていたし、カッコウもモズの母親を愛していたのは変わりないのです。
今ではモズとカッコウの話を聞くのをやめて、鳩から「公園であったちょっといい話」を聞くのが日課になったのです。


end

(c)AchiFujimura 2008/4/29




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