クリスマスツリー

 どこにでも生えている、誰でも見つけてるけど誰にも知られていない、目立たない木がありました。
葉っぱは大きくも無く小さくも無く、楕円形で少しぎざぎざがあり、枝はよくしげり、背は高くも無く低くもありません。
どんな場所にでも生えて育ちますが、きれいな花もおいしい実もなりませんので、誰もその木のことを気にしてくれません。

 その木は保護もされず、伐採されてほかの木の林が出来上がり、少しずつ数が減っていました。
「このままでは僕たちはいつか一本もなくなってしまう。進化しなくてはいけない」
木々は相談しました。
「そうだ、とってもきれいな木があるんだ。あの木のまねをしよう」
クリスマスツリーは人間たちに人気でした。愛される木になれば、もっと増やしてもらえるかもしれない。
木々は進化して、新しい木に生まれ変わることにしたのです。

 蛍に教えてもらって、光る仕組みを手に入れました。
蝶のまねをして、きらきら光るリンプンを手に入れました。
綿と交わって、枝に綿をちりばめました。

 クリスマスがちかくなると、木々はざわざわと成長し、緑色の光を放ち、綿をかぶり、葉をリンプンできらめかせました。

 しかし、木々は人間に好かれることはありませんでした。
綿は散らばって掃除がめんどうでしたし、リンプンは粉が舞って評判が悪いのです。
しかも光ると嫌なにおいがします。
数年もたつと、緑の光が見えるだけで人間たちは顔をしかめるようになりました。

 でも静かな山の中腹で、人間たちも近づかない林の中、新クリスマスツリーたちは静かにたたずんでいます。
光ると嫌なにおいがする。あの木の名前はね……
ひそひそと、名前を呼ぶ声がする。
それだけで幸せに震え、またリンプンを飛ばすのです。


end

(c)AchiFujimura 2009/12/25




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