おはなししてよ

ドドーン。
ミミーという名のおおきな牛は、若いメスのライオンに倒されました。
ライオンが後ろ足に噛み付いています。
もう逃げることはできません。
だって、後ろの足はもう皮でつながっているだけなのですから。

「ぼくを、たべるの?」
ミミーはライオンに聞きました。
「そうだよ、食べるためにつかまえたんだもん。」
「いやだなぁ。痛くしないでね。」
「痛いと思うよ。がまんしなよ。」
ライオンが、ミミーのももの辺りをひきちぎりました。
「イタイ!」
ミミーが叫びました。
「そんなに、さけばないでよ。」
ライオンはそう言ってから、ぴくんと耳をすませました。
「こどもの声がきこえる。危ない目にあってるみたい。」

「えっ、じゃぁ、行ってあげなよ。ぼく、にげないでここに居るから。」
ミミーがそういうので、ライオンは子供の元へ走っていきました。
「たべられてないけど、いたいなぁ。」
ミミーはなみだをぽろりと流しました。

「おい、ウシ。」
だれかが話し掛けます。
「ハイエナ君」
「おれが、お前を食べるぞ。いいか。」
ミミーは顔を上げました。
「でも、僕はいま、ライオンさんが戻ってくるのをまっているんだ」
「そんなの、かまわない。ライオンが帰ってくるまで、おれに食べさせろ。」

ハイエナは、ミミーに噛み付きました。
「イタイよ!」
「がまんしろ!イタイに決まってるじゃないか。」

「君たちはヒドイね。イタイのが分かっているのに、こんなことをするんだ」
ハイエナはだまって、ミミーのおなかに噛み付いていました。
「僕は、イタイのが分かっているから友達をつので刺したりしないよ。」
「お前は、友達をつのでささないと死ぬのか?」
「……ううん。」
「おれたちは、お前をこうやってたべないと、死んでしまうんだ。
しかたないんだよ。」

「そうだね。ぼく、がまんするよ」
ミミーが、そんなにわかってくれるとはおもわなかったので、
ハイエナは血まみれの顔をミミーの方に向けました。
「あはは。僕の血で、顔がまっかだよ。」
「お前みたいなウシは、初めてだよ。」
ハイエナはおなかの中を引きずり出しました。

「ねえ」
「なにかおはなししてよ」

ミミーがそういいます。
「食べながら話はできないなぁ。」
ハイエナはそういって、引き裂いたおなかの中へ頭を突っ込みました。

「ライオンさんが帰ってくるよ」
ミミーは、少し顔を上げてつぶやきました。
「ちぇっ、まだほとんどたべてないや。
……それじゃ、さよなら。お前、うまかったよ」
ハイエナは、おなかの中のお肉を少しだけくわえると
走って逃げていきました。

「ライオンさん」
てくてくと歩いてきたライオンは、何も言いません。
「どうしたの」
「私の子供たちは、みんなおおきな鳥に連れて行かれてしまった」
「死んじゃったの……」
ライオンは首をがくっと下に向けています。
「そんなに、子供が死ぬのは悲しいのに、僕のことはたべるんだね」
「ほんとうだね。でも、私はあなたを食べないと死んでしまう」
ミミーの肩に噛み付きました。
「ねえ、おはなしして」
ミミーがお願いをします。

「ねえ、ぼくのどこが一番おいしいの。」
「そうだね、やっぱりこの、肩の辺りかしら。」
「そうなのかぁ、、、僕が食べてみてもおいしいかな。」
ライオンは肩の肉をひきちぎって、ミミーのくちへ運びました。
「おいしくないや。草の方がいいよ」
ミミーは、肉を吐き出しました。
ライオンは、またもくもくとミミーを食べはじめました。
「あなたが、なにかおはなししてよ……」
ライオンは一言、そうつぶやきました。

ミミーはいろいろおはなしをしました。さっき捕まったときの話とか、
友達のこととか…

「?…どうしたの……」
ライオンが話しかけました。
ミミーはもう、なにもお話しませんでした。
ライオンは、また寂しくなりました。
何も喋らずに、ミミーを食べ続けました。

全部食べたライオンは、残ったミミーを振り返りながら
どこかへ去っていきました。

夜がきて……ハイエナがまた、ミミーのところへやってきました。
「お前、もう喋らなくなったんだな。」
「おれも、もうちょっとおまえがたべたかったよ……。」
ハイエナの、骨を砕く音が夜に響きました……。

end