おわる

こんなに急に終るなんて、これっぽっちも予想してなかった。
この亡骸は写真にとってはいけないのだろうか。
始まりの記録は残すべきで、終る記録は捨てるべきなんだろうか。

人の終わりを感じた時、あの人との思い出の記憶へのアクセスが急に早くなった。
自制がきかない。かってにアクセスされて開かれる記憶のファイルは
私に本当のことを伝える。
ああ、こんなにも。こんなにも、あの人は私の中の容量を閉めていたのか。

終る前の写真を見れば、そのときの記憶へのアクセスは容易に出来る。
でも、最後に上書きされてしまった最新記録にジャマされて、違うものに記憶は変化している。
必ず最後に行き着くのは、「この人はもう終ってしまった」

やめて!やめて!そんなことしないで!
恐怖におびえて私は大きな木の箱を抱きしめた。
それをあの炎のなかに入れてしまうなんて、
こんな時にも忘れていた、隅っこにしまわれていたプログラムが起動する。
人間が燃えるとどうなるか知ってる?
友達との無邪気な会話が、この先のあの人を想像させてしまう。

ほっと安心した。
炎から出てきたあの人は、原形をとどめておらず
別になんてことはなかったのだ。とても、炎に入る前のあの人と一致しないものになっていたからだ。
あのひとの最後の姿の記憶に、いまの姿が上書きされることはなかった。

機械的に私はつぶやく、「はじまってたんだから終るのなんてあたりまえ」
でも機械に成りきれない私の想像力が首をもたげる、
「終るのがこんなに悲しいなんて」

end