てのひらは満員

木の上に鳥の巣がありました。
掌子はしゃがんで、その鳥の巣を見ていました。
いつも見つめていたわけではないのです。
たまたまみんなと公園でお話をしている時に見つけたのです。
それから、近くを通った時に見ていきました。

掌子はいつも心配していました。
あの小鳥が落ちるんじゃないかと。

掌子は小鳥に話しかけます。
落ちそうよ。飛ぶ練習をしたら?
小鳥は答えます。飛ぶ練習はやっているよ。
掌子は祈るだけです。「この小鳥が飛べるようになるまで、巣が落ちませんように」

掌子ちゃんはいつも、地面の上にいるね。ボクも歩きたいな。
小鳥がそういうので、掌子は「だめよ。あなたは飛びなさい」と言います。
小鳥はわかっているのか、それともわかっていないのか、巣の枯れ草をつついています。

 掌子は今日も、小鳥が元気なのを確認しました。
でも、小鳥は掌子に気が付くと、巣から身を乗り出しました。
一瞬飛ぶかと思ったのですが、キリキリと回転して地面に落ちてしまいました。

 いつか地面にあこがれて巣を飛び出るんじゃないかと思ってた。
掌子は独り言のようにつぶやきました。
そうしたら、飛ぶことも出来ないあなたはどうすることも出来ないじゃない。
「ばかね。」

涙はでないのですが、胸が締め付けられてたまりません。
私はいつも、てのひらにいっぱいの宝物を持ってる。
私はいつも、心にいっぱい宝物を持ってる。
もう、小鳥が入る心の隙も、小鳥を受けとめるてのひらも、私には無いのよ。

そう思いながら、木の根本に転がる小鳥を見つめました。

わたしが地面を歩かなければ良かったのかもしれない。
わたしが小鳥に声をかけなければ良かったのかもしれない。
わたしが公園に来なければ良かったのかもしれない。

残るのは、自分を責める意味のない過去だけです。

end