蝉絨毯

夏が終るので、こうなることはわかっていました。
今年の夏はとても暑く、夏らしく、そして蝉が異常に五月蝿かったのですから。

六月の終わりから鳴き出していた蝉は早いうちに落ち、
木の根本で無残に腹を見せていました。

あんなに五月蝿く感じていた蝉の声が急に静かになり、
かわりに飛蝗たちが脚と翅をこすり始めた頃。

並木の道には、蝉が絨毯のように敷き詰められていたのです。
とても歩く気になりません。この道を通らねばならないのですが、
蝉たちの間には隙間すら無いのです。

ためらって、絨毯の入り口で立ち止まっていると
いつもとは明らかに違う蝉の声が聞えてきました。

「ふんで」
「ふんで」
「ふんで?」

「ふんでふんでふんで ふんでふんで 踏んでふんでふんでふんでふんで
ふんでふんでふんでふんでふんで ふんでふんでふんで ふんで、ふんでふんで」


おもわず、耳を腕でふさいでくるりと背をむけました。
震えて目を閉じて、蝉の声を振り払いました。

シーン…と静かになりました。
目をあけて振り返ると、さっきと同じ蝉の絨毯が静かにそこに有ります。
一歩踏み出しました。
シャク。
ジャリ、バリパリ…

 リリリーリー
立ち止まるとやっぱり、飛蝗の脚と翅をこする音が聞えます。
もう秋がきたのですね。


end