ぼくのおかあさんは笑顔

小学校の教室で放課後、友達と一緒にケンジくんもおしゃべりをしていました。
「あのゲーム、全部クリアした?」
「おれまだ〜。アイテムが一個、みつかってないんだよな」
「ダッセ」

良くある風景でした。
「ちょっとがんばれば、すぐ見つかるところにあるぜ」
「でもさ、うちのかぁちゃんコエーんだよ。すぐ、”ゲームばっかりしてないで!”
って、おこるんだぜ。」

そのあとは、おかあさんがどれほど怖いかって話になりました。
「ほんと、ツノはえてんだぜ。」
「たまに、自分の親じゃないんじゃないかって疑うよなぁ。」

ケンジくんはだまっていました。

「ケンジのかあちゃんは、そんなことなさそうだよなぁ。」
「そうそう、いっつも笑顔で、にこにこしてて、おこらなそうだよね」
「だいたい、ケンジはいい子だしさ〜」

みんながそう言いました。
「うん、うちのかあさんはいつも笑顔だよ」
ケンジくんはそううなづきました。

うらやましいよなー、などと口々にみんながいいます。
でも、ケンジくんのお母さんは怒るときもニコニコしているのです。
ニコニコしながら、ケンジくんの目線にあわせてしゃがんで、しっかり肩を捕まえます。
ケンジくんはそれだけでも逃げ出したいくらい怖いのに、おかあさんは笑顔でこうつぶやきます。

 あなたなんて、おかあさんに嫌われたら生きていけない弱い生き物なのよ。
 おかあさんをあんまり、嫌な気分にさせないで。
 あなたはお利口だから…わかってくれるわよね?

ケンジくんはぶるぶる震えて、もうおかあさんに何も言い返せなくなります。
お母さんの笑顔はいつでも、ケンジくんの側にいます。

end