今日、おばあちゃんが亡くなった。 お通夜もおわって。みんなが帰ったその後、私はなんだか眠れなくて、お水をのもうと廊下を歩いていた。 居間に明かりがついていたから、ちょっと覗いてみると、 お母さんがちいさな明かりの下で、分厚いノートに向かってた。 「お母さん…?なにやってるの?」 私が声をかけると、お母さんはゆっくりとこっちを見た。 お母さんは、手にピンクの色鉛筆を持っていた。 「どうしたの?眠れないの?」 お母さんが私に聞いた。「うん」 「お母さんは、なにをしているの?それ、何のノートなの?」 「これはね……。おばあちゃんの、日記なのよ」 それは、日記というには記す場所がちいさすぎて、まるでスケジュール帳のようだった。 「これはね、10年日記なのよ。おばあちゃんは毎年、ここにその日の出来事を書いていたの。」 「下が、二段あいてる」 「そう……おばあちゃんは、これを、8年間。なくなる前の日までつけていたのよ」 そして、その開かれたページの、上5段には、ピンクの色鉛筆で色が塗ってあった。 「その、ピンクは何なの?3年前から色が塗ってない。」 私が不思議に思ったことをそのままお母さんに聞くと、お母さんは今日の日付の部分に、ピンクで色を塗った。 「これはね。おばあちゃんがおじいちゃんのことを大好きだった証なの」 お母さんはゆっくり、教えてくれた。戦争の時に恋に落ちた二人が、疎開や徴兵で長い間離れ離れだったことや、 病気で療養したり、なかなかあえない日が続いていたということを。 そして、ピンク色の日は、おばあちゃんとおじいちゃんが、会えた日だということを。 「3年前、おじいちゃんがなくなった日、おばあちゃんはピンクの鉛筆を燃やしてしまったのよ。」 私は黙って日記の、ピンクでない部分を見つめていた。 「きっと、今日は3年ぶりに会えて、先に天国におくっておいたピンクの色鉛筆で、いろを塗っていると思うのよ。」 きっと、毎日毎日、これからはピンク色で色を塗るんだ。 色鉛筆、なくならないように、たまに送ってあげましょうね。 お母さんがそうやさしくいった。 end
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