ある日、僕が森に行くと、とてもきれいな女の子がいた。 髪の毛が長くって、年は16くらいだろう。 彼女はとてもきれいなピンクのドレスを着ていたのだけど、なぜかはだしだった。 「ねえ」 僕はたまらなくなって、声をかけた。 彼女は振り向いた。 「どうして、はだしなのさ」 僕が言うと、彼女は不機嫌そうな表情になった。 「あ、いや、素足もきれいだけど。」 「足が言うには」 「靴は窮屈なんだって。ジョークじゃないのよ。」 「足の考えてることなんてわかるの?」 「、、そう、私は体中の言葉がわかるようになったの。」 わけがわからずに、僕は森を出た。 次の日、僕が森に行くと、 彼女は裸になっていたのだ。 「どうして、はだかなのさ」 僕が言うと、彼女はあきれたため息をついて 「体の、、、この辺が」 とおなかのあたりをなでて、 「私達も風にあたりたいわって言うのよ」 「ピンクのドレスはどうしたの」 「あれは、友達になった熊が旅に出るって言うから、せんべつにあげちゃった。」 熊が、ドレスを。 僕は、ドレスを持った熊を想像すると少しおかしくて、笑いながら森を出た。 僕は、次の日も森にいった。 裸を見てしまったから、もうどんなことがあっても驚かないつもりだったのに。 彼女は裸のまま、逆立ちをしていたのだ。 こっちに背を向けていたのが幸いだった。 「…なぁ。」 僕が声をかけると、彼女は僕だとわかったらしく、こっちを向かずに 「足が、いつも下ばかりだから、たまには上のほうにも言ってみたいっていうのよ。」 といった。 「でも、手が疲れるっていってくるんじゃないか?」 彼女の手はぶるぶる、がくがく震えている。 「もう、再三いってきてるわ。でも、まだ足の気は済まないらしいのよ。」 困った体だ、とつぶやきながら、僕は森を出た。 次の日森に行くと、 彼女は枯れ葉の山から頭だけを出していた。 「どうした」 僕が声をかけると、彼女は 「あれほど風にあたりたいって言ったのに」 「今度は、寒いからどうにかしろって言うの」 と、困ったようにいった。 ドレスは、熊が持って旅に出ちゃったもんな。 その日、僕は森から出て、自分の家をあさって とび色のコートをみつけて、戸口にかけておいた。 次の日も森に行った。もちろん、とび色のコートを持って。 彼女がいた。 「髪、」 彼女の髪の毛、あんなに長くてきれいだったのに、とても短くなっている。 どうして……。 「ああ、貴方ね。」 こっちを振り返った彼女は、 「頭が重い、とかいうの」 といってから、僕が手に持っているコートに気がついた。 「それ…。私のために?」 僕は返事もせずに、コートを彼女の方へ投げた。 彼女はそれにくるまって、うれしそうに微笑んだ。 僕は後ろを何度も振り返りながら、森を出た。 次の日森へ行くと、 彼女の目が真っ赤にはれていた。 僕と目が合うと、こっちがなにもいわないうちに 「そんなコート着たくないって、みんながくちをそろえて言うの。 色が気に入らないみたい。でも、これだけはゆずれない、私はコートを着るって言ったのよ。」 ふわぁ、と小さくあくびをした。 「ほかのことならなんでも言うことを聞くって言って、ようやく許してもらえたの。夕べ一晩かかって、よ。」 そう言い終わると、すぅっと寝てしまった。 僕は森を出た。 次の日森に言った僕は、びっくりして彼女に駆け寄った。 彼女は仰向けになって倒れていたのだ。 僕の枯葉を踏む音で気がついたのだろう、彼女はこっちを向いた。 「なんていわれた?」 聞くと、 「体中が、疲れるから動きたくないって言うの。 ………で、あまりしゃべると」 と、ゆっくり言う。僕はうなずいて、 「くちが、つかれるっていうんだろう?しゃべらなくていいよ。 僕はここにいてもいいかな」 とたずねた。彼女はまばたきでウン、とうなずいて、空を見た。 僕も、100個の雲が山の向こうに消えていくのを見てから、 森を出た。 次の日は、森で彼女に出会ってから、一週間と1日がたった日だった。 いつもの場所で、僕は彼女とお別れすることになった。 彼女は、目をあけたまま…、空をみつめたまま…、 冷たくなっていたのだ。 「どうした?」 僕はいつもの調子で声をかけた。 ここが。(心臓のあたりを指して、)私ばかりずっと働いてて、馬鹿みたいだっていうの。 おおかた、そう言うことだろう。 私も疲れたわ、やすみたいのって言うかもしれないぞ。 そう思って僕は彼女の目をそっと閉じてあげた。初めて彼女に触れた。 彼女は、とび色のコートを着たままだった。 僕は少し泣いて、森を出た。 end
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