今夜はサツジンをしに

サツジンをしに出かけました。
なぜなら、悪いものが許せなくなったからです。
コートのポケットの中で、きらりと刃渡り15cmのきれるものが光っていました。

一番最初にあった悪い奴からコロしてやろう。
わるいやつならコロしてもよいだろう。

最初の人とすれちがいました。
どこか、悪い所があるかもしれない。
目をいっぱいに開いて、その人をみつめました。

すると、その人、いったのです。
「こんばんは」

あいさつするなんて、見も知らないボクにあいさつするなんて。
なんていい人なんだ。
おもわず笑顔がこぼれました。
ポケットのなかの手もゆるみました。

すれちがって3歩くらいあるいたら、うしろからその人、こう言ったのです。
「これ、おちましたよ」
にこにこと、ハンカチを手に持って、その人はいいました。

ボクの、サツジンを、ジャマするいい人なんて。なんて悪い奴なんだ。
悪い人でなければコロせないじゃないか。

その人にむかって、ボクはゆっくりと歩いて行きました。
もちろん、ポケットの中身をしっかり握り締めて。


end