無邪気なイルカと、渡り鳥

ある、晴れた気持ちの良い昼下がりでした。
広いおだやかな海に、ぽつんとなにかが浮かんでいました。
それは、小さな渡り鳥。
飛ぶのにすこしつかれたので、そこで休憩をしていたのです。
そんな鳥さんを、水の中からイルカが見ていました。

 ザバッ、とイルカが水面に出てきました。
鳥さんはイルカをみるのははじめてだったし、
イルカも鳥さんをみるのははじめてでした。
「こんにちは。」
両方、不思議なものを見るような目で見つめあっていました。
「どこから、きたの。」
イルカが聞きました。
「遠い所からだよ。」
「どうやって、きたの。」
「飛んできたんだよ。こうやって」
鳥さんは、少し飛んで見せました。
「スゴイね!はじめてみたよ!」
鳥さんは、ビックリしながら喜ぶイルカをみて、少し得意になって、
「僕は、世界のいろんな物をみてきたんだ。」
と胸をはりました。
イルカは、頬をふくらませてわくわくしました。

 「そうそう、きみも、人間には気を付けたほうが良いぞ。奴らは、
君たちを、箱に入れてじっくりながめたあと、むしゃむしゃと食っちまうんだ。
子供をえらんで食べたり、たまごをたべたりするんだ。怖いぞ。」
イルカはふるえあがりました。

 そんな調子で、鳥さんは自分がみてきたものをたくさんしゃべりました。
すこし、何も知らないイルカを、小馬鹿にするようなかんじで。
でも、イルカはとてもわくわくしながら話をきいていました。

 「この、海の底はみたことないの?」
イルカはくるっと一回りしてから、鳥さんに聞きました。
鳥さんは首を一回転させてから、
「海の底は、みたことないなぁ。」
と言いました。

「じゃぁ、僕がみせてあげる!」
イルカは笑顔でそう言って鳥さんのみずかきをくわえると、
あっというまに海の中に潜って行きました。
鳥さんは足をばたばたさせて、なにかをしゃべっていましたが、
声はあわになってきえました。

 おとなしくなった鳥さんをくわえて、
イルカはずーっと海を案内してまわってあげました。


end