底で、たくさんの人が上を見上げていました。 上のほうには、底よりずっと明るい世界が広がっていて 誰かがたまに覗き込んでは、笑っていました。 そのまたさらに"たまに"、誰かが底に転げ落ちてきて、 底から上を見上げるようになるのです。 底にいた人たちもむかしは明るい世界にいたのに、 どうしてこんなところに転げ落ちてしまったのでしょう。 底には闇が広がり、人は首をあげているのにも疲れ、 仰向けに倒れて 上の世界をうらやましそうに眺めるだけでした。 「穴を掘ったら、どうだろう?」 底にいた一人が言い出しました。 「ここはどん底だ。でも、さらに深い"底"が出来れば、ここが底でなくなる」 みんなは、手で一生懸命穴を掘り出しました。 深い深い、穴が出来ました。 ほとんどの人は、穴から這い出てきたのですが 数人が上がってこれずに残りました。 その、穴の底にいる人たちを指差して、底にいる人が笑います。 「みろよ、あんなに下に人間がいるぞ」 「ここより暗い場所にも、人間がいるぞ」 穴の底の人たちは、這い上がる気力もなくして、ただ仰向けになって倒れています。 穴の底の人たちが穴を掘り始めた音が聞こえます。 自分以外の人間を、一番底の穴に落とすために。 end |