「紅葉が終わるね。」 並木の道を歩きながら、空を見上げた僕・洋太はそうつぶやきました。 いっしょに歩いている、僕のおじさんも赤と黄色と秋空のコントラストがきれいな空を見上げて 「そうだね。」とつぶやきました。 「樹についている葉っぱもとてもきれいだけど、落ちて積もってもいいよね、 暖かくてフワフワしてて、歩くたびにいい音が聞こえるんだ」 「でも、その音は悲しい歌なんだよ、洋太くん……そら、そこの銀杏の幹に耳をつけてごらん。」 おじさんがそう言いました。僕は、幹に耳をそっとつけてみました。 「死んでしまった」 「みんな、いなくなってしまった」 幹からそんな声が聞こえます。とても小さな声です。 そしてまた、樹から葉っぱが一枚落ちてきました。 「とても、かなしい声が聞こえるよ」 僕がつらくなって、幹から耳を離すと、おじさんは銀杏を見上げました。 「この銀杏も、別れがつらかったんだね」 「どうして、誰と、別れなくてはならなかったの?」 「春から夏の間、木々は虫たちとたのしくすごしたんだ。木々と虫たちは仲良しなんだよ。 だけど、秋になって虫たちはみな、死んでしまった」 「葉っぱには楽しい思い出がつまっている、その葉っぱを落としてしまうことで楽しかった記憶を、 悲しかった出来事を、……虫たちのなきがらを、埋めて忘れてしまおうとしているんだよ」 「じゃぁ、春が来たら、虫たちにもまた"はじめまして"だね。」 僕たちは、悲しみのあまり枯れて色あせた記憶のかけらを、踏みしめ、愛でて、また春を待つことが出来るんだね。 end
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