深海魚の家出

深海魚のエソくんは、いいかげん深海が嫌で嫌でしかたありませんでした。
暗いし、食べ物少ないし、何といってもこの圧力。
上下左右から、ぎゅーっと押されているのです。
うまれたときからエソくんは、ここでムネエソ(種類)としてくらしてきました。

「ぼく、浅海に行ってくる」
エソくんがそう言い出したのは、ある木曜日でした。
お母さんもお父さんも大反対。
ぜったい駄目よ、圧力がないってことは大変なことなのよ。
両親は説得しましたが、エソくんは浅海がきになってしかた有りません。

ムネエソの仲間は、夜になると浅いところへえさをとりに出かけます。
そのとき、エソくんは決心して、そのまま浅い海へと出かけたのです。

朝がきました。とても明るいのです。
お月様が明るくなった!!
太陽を見たことのないエソくんは、とってもおどろきました。
なんだか、奇麗で、けしきがうきうきして見えてきたのです。
こんなにお魚がいっぱいいたなんて。ぼくがいつもいる、900(深さ)とはおお違いだ。
そして、なんだかからだが軽く感じるのです。
そうだ、圧力が小さいんだ。
うれしくなってすいすい泳ぎ回りました。

そこは、天国でした。圧力が小さいことも、えさが昼でも食べれることも、
とても幸せなことでした。
それに、水がなんだか温かいのです。
それはそうですね、ここは15度くらいあるのです。

エソくんはすっかり気に入って、そこに何日もいました。夜も、昼も。

ところが。あるひ、エソくんは他のお魚のうろこにうつった自分をみて驚きました。
なんだか太っているのです。
圧力が小さいところで、たくさん食べたせいでしょうか。
そして、エソくんはその自分の姿を気に入りませんでした。

やっぱり、帰ろう。
こんなみにくい僕になるくらいなら、
周りの圧力なんて小さいことだよ。

今は、圧力が無いのが自由で素敵だと思っていた、
そんな愚かな自分をとても恥ずかしく思うのです。

そして、あの暗くて食べ物も無くて、ただじっとしてる生活に
もんくもいわない仲間を、とても誇りに思うのです。

エソくんは、ゆっくりゆっくり、明るい暗闇を目指して帰っていったのでした。


end