アカウント@tengoku.hvn

   アカウント@tengoku.hvn
 これは新しいネット上のサービスです。
私が使うことは無いだろうと思って、雑誌で見てはじめて知った時には鼻で笑いました。
こんなサービス、誰がお金払ってまで使うんだ?
使う人がいるとしたら、相当感傷的な人間に違いない。そうとまで思っていました。

 その私がいままさに、tengoku.hvnの申し込みフォームにクレジットカードの番号を入力しているところなのです。
「希望のアカウント名を入力してください。」
@tengoku.hvnの「@」より前の部分はユーザーが自由に決めることが出来ます。
私はそこに、先日 亡くなった友人の名前を入力してEnterを押しました。
よかった、このアカウントはまだ誰も使っていなかった。


出来上がったアカウントは今すぐ使えるように設定されました。
早速私は、「友人の名前@tengoku.hvn」あてにメールを書きました。

 「元気ですか。こちらは変わりありません。
  また、こうしてあなた宛にメールを書くことが出来るようになりました。
  今までどおり、あなたへメールを送ることが出来て嬉しいです。
  明日は雨が降るそうです。今日の雨でぬれた靴も、まだ乾いてないのにね。
  それでは、また近いうちにメールします。」

送信ボタンを押して、パソコンを閉じて、私は床につきました。
次の日目がさめてメールを受信してみると、

「友人の名前@tengoku.hvn 宛のメールは開封されました。」

一行だけのお知らせメールが、他のメールにまぎれて届いていました。
よかった、友人に届いた。開いて読んでくれたんだ。


 そう。@tengoku.hvnのアカウントに届いたメールは数時間後サーバから削除されて、
同時に開封を知らせるメールが返信されます。死者から返事なんて来ません。
ただ、永遠に、サービスが続く限りメールは届き開封確認が届きます。
生きている間にあの人へ伝えられなかったことも、全て伝えることが出来ます。
どこかで、元気で……メールをチェックして読んでくれているんだと、ずっとずっと思い続けることが出来るのです。
ユーザーは皆、それが幻だとわかっているのです。


@tengoku.hvnのユーザーは今日も増え続けています。今のところ、サービスを途中で解約した人はひとりもいません。


end

(c)AchiFujimura 2003/1/8