ひとのよのおわりに
姿を隠すような黒い闇があたりをつつんだころ、ぼくたちは人恋しさに泣くのです。
寂しい夜は突然来て、それまで当たり前のようにあったはずの摩天楼は跡形もなく崩れ、
普段物陰に隠れていたぼくらには日の光がまぶしすぎるので、昼間はスキマに逃げ込んでいるのです。
ある日、地球がものすごく揺れ、いつも地面に腹をつけて這いつくばっているぼくらですら飛び上がり、
いろいろな音が聞こえました。そしてあの赤い空気が流れ、嫌な香りがあたりを覆いました。
全てが去ったあとにも、ぼくたちの存在だけは変わらなかったのです。
たくさん人がいたはずなのに。あのころは、ぼくらが日の光を避けて物陰に潜んでいる間は人も家にいなくて、
夕方になると集まってくる。いい香りが家中を漂って、ぼくらも誘われて顔をだすんだ。
人々がぼくの顔を見ると、決まって追い払われるから、なるべく見つからないように、でもいつもそばにいたよ。
今は、誰もそばにいない。
寂しい、寂しいね。黒い闇に溶け込んで、ぼくらが顔をつきあわせていると、
月の光がさーっと明るい闇を作ります。
人がいたときには、たくさんの大きな光や小さな光があって、まぶしさに目を細めながらも、
なんてキレイなんだっていつも感じていたよ。
人のそばはいつもほの明るくて、ほの暖かかった。
こうして、何をみてもぼくらは人を思い出してしまうのです。
丸い月に誘われて夜空を見上げれば、そこには街のネオンのような小さな灯りがたくさん瞬いています。
あの遠い空に、人々は住まいを移してしまったのでしょうか。脚を伸ばしても届かない、飛んでもたどり着けない場所へ。
いつだったっけ、人がぼくの顔を見てつぶやいていたよ。
「お前らは、この世の終わりがきても生き残るだろう」って。
その通りだった、人がいなくなってもぼくらは生きている。
でもね、もうすぐぼくらの世界も終わるんだよ。
ぼくらは人がいなくなった世界では、寂しくて、生きていけそうにないから、
あのくらい空にまぎれて、人のそばへ行くんだ。
そこでもまた嫌われるかもしれないけど、大丈夫。
ぼくらはあの夜空と同じくらい黒いんだから。
end
(c)AchiFujimura 2004/5/5