R.O.M.
僕のサイトはテキストサイトで、日々の出来事を僕なりの切り口で語るコラムの評判がよかった。
僕の文章を気に入ってくれた人たちがwebサイトを時々覗いてくれて、感想や意見を掲示板へ書き込んでくれる。
普段、僕は傍観しているのだけれど、たまには話題に入っていくこともあった。
アキくん:今日は土用の丑の日ですね! みなさんウナギは食べましたか?俺はそんな高級品、食べれねえよ!(笑)
ミドロ:ウナギ、食いてえ!
掲示板常連の数人が、土用の丑ネタで盛り上がっていた。
季節の話は大好きな僕だから、ウナギのネタにちょっかいを出そうと思いついた。
ケンズィー@管理人:うなぎって皮に毒があるんだって、知ってた?
山梨王:ヘェー!(80へぇ)
ミドロ:トリビアっすね!
あまり知られていないことだったようで、このネタはみんなを驚かせることが出来たようだ。
このまま普通に、いつものように話題はしぼんで行くんだと思っていたのだが、
たった一人の「R.O.M.」の登場により、掲示板の雰囲気は一変してしまったのだ。
三太郎:いままでROMっていましたが、おせっかいにもクチを挟ませていただきます。
皆さんはじめまして、三太郎といいます。フルネームは蒲焼三太郎です。
いつもこのサイトは楽しく読ませていただいております。しかし、ウナギに毒があるなどという
『大嘘』を撒き散らされては、黙っておれません。
老婆心ながらご忠告いたします、ケンズィー@管理人様、どうかあまりいいかげんなことを
おっしゃらないでください。直ぐにウソを訂正し、謝罪をTopページへ掲げることをおすすめいたします。
三太郎、確かに聞いたことのない名前なので、初めて書き込みする人だろう。
ウナギの毒の話はウソじゃないのになぁ、書き込む前に調べなかったのかな?
僕はあまり関わり合いになりたくないと思いながらも、短い返事を書き込んだ。
ケンズィー@管理人:三太郎さん、はじめまして。いやぁ、ウナギの話は、本当の話なんですよ。
僕が書き込んでから7分後のタイムスタンプで、彼の書き込みが再びあった。
三太郎:私にウソを指摘されて恥ずかしいからって、ウソの上塗りは止めてください。
もしもウナギに毒があるなら、なぜスーパーで堂々と売られているのですか。
三日前に、私も食べています。死んでいません、毒がないからです。
早めに訂正することをオススメします。ウナギ料理を作っている皆さんから、訴えられても
知りませんよ。あなたは彼らを侮辱する行為をしているのです。
僕のためを思って言うのだ、という彼の慇懃無礼な書き込みがだんだん癪に障ってきて、
僕は早く決着をつけて消えてもらいたいと考えた。
ネット上で、ウナギの毒について書いているページをいくつか探し出し、それらのアドレスとともに
再度書き込みをした。
ケンズィー@管理人:下記のように、ちゃんと情報のうらづけもありますよ。
死ぬほどの猛毒だけが毒じゃありません。もっとも、焼いたらなくなるぐらいでは、
毒とはいえないのかも……知れませんがね。
我ながら大人気ない書き込みをした!
常連のみんなも、この一連の書き込みに気がついたらしく、三太郎にレスを返し始めた。
ミドロ:ちゃんと検索とかで調べてみればよかったのに>三太郎
山梨王:スンマセン、俺も疑ってました(笑)ホントだったのね〜。
アキくん:うなぎを追って天まで行けよ(笑)>三太郎
ちょっとかわいそうなことをしたかな、この流れで行くと、三太郎はブチ切れるぞ。
で、あの捨てセリフを残して行くんだ、僕のサイトであのセリフが聞けるのは初めてだ。少しワクワクした。
「こんなページ、二度と来ません」
三太郎:これはこれは、博学な管理人さんの足元にひれ伏すしかないようですね。
でも、もう少し初心者にもわかりやすい書き方を心がけたほうがよいのでは?
このまま、ケンズィーさんのような文章でもっともらしいことを書かれると、
ナニが真実かすらぼやけて見えてきそうですね。まあ、このページもその程度、ということでしょう。
これ以上貴方達の相手をして、書き込んでいても私にメリットが何もありません。
今回のウナギの話は大変勉強になりました。掲示板になんて、そうそう書き込んだりしちゃ
自分のためにならないってことをね。
あーあ、無駄な時間でした。皆さんにも、忠告をひとつだけします。
掲示板への書き込みなんて無駄ですよ。くだらない人間の、くだらない遊戯です。
来た、来た来た!
この流れで書き込みがくれば、あとはあのセリフだけだ!僕は彼の長い文章を読み進めた。
正直、目が滑って内容はあまり頭に入ってこないのだが……
しかし、最後まで読んだ僕は、意外な締めに面食らってしまった。
三太郎:でも、また来ます。
書き込みは懲りたので、もうしないと思いますが、ここで貴方達のおばかなやり取りが繰り広げられるのを、
『今までどおり』毎日見にきます。大いに書き込んでください、絶対私は一番に読んでいます。
慌ててアクセス履歴を見れば、確かに彼のアクセスは数分に一回ある。
書き込みをする前から、今日までも、ずっと続いているようだった。
「二度とこないよ」と言って消えてもらったほうがマシだった。
今日も、三太郎に見られていることを知りながら掲示板は動いている。
どこかで、いちいち僕らの書き込みを見ては笑う……僕には、そんな三太郎の姿がうすぼんやりと見えるような気すらした。
end
(c)AchiFujimura 2004/09/28