サンタと一緒にクリスマス

それはさむいさむいクリスマスの夜でした。
もうみんな眠っている、夜です。
でも、ダイは起きていました。ダイは15歳、受験勉強が忙しい時なのです。
参考書を開いて机に向かっているのですが、どうも進みません。
そのうち、うとうとしていねむりをはじめてしまいました。

コトッと言う音と、かすかな気配に気が付いてダイは目を覚ましました。
「だれ?」
振り向くと、そこには白髭白髪、真っ赤な服に雪のようなマフラーをしたおじいさん。
「もしかしたら、サンタさん?」
ダイは聞きました。
おじいさんは おお、とちいさく言うと、嬉しそうに髭をなでて、
「そうじゃ、そうじゃ。サンタだよ。」
「やっぱり。そんなかっこうしてるんだもん、すぐわかったけどね。」
ダイは笑顔でいいました。
「わしがサンタだと、君はしんじてくれるのかい。」
サンタさんは、その方が不思議だという顔をしました。
「じゃぁ、おじいさんはサンタじゃないの?」
ダイが聞き返すと、サンタさんは「いや、わしが本物のサンタじゃ、」ときらきらして言うのです。

「なんで、僕のところに?僕はもう中学三年生だし、15歳だよ。
もっと小さい子の所へいくもんじゃないの?」
ダイは、いすをくるっと回転させて、サンタさんのほうにからだを向けました。
「最近は、小さい子供が少なくなってな。年齢の幅が上がったんじゃよ。
信じてくれている子のところにだけ、あらわれることができるのじゃが、
……最近はそんな子供もめっきりすくなくなってしまった。」
サンタさんは悲しそうにつぶやきます。
「僕は、信じてたんだよ。サンタさんって、いるんだろうなって。」
ダイはにこにこしています。
「僕のお父さん、僕が5つの時に死んじゃったんだ。」
そういうダイの顔は、やっぱり笑顔です。
サンタさんはめをぱちぱちさせて、ダイの話を聞きました。
「あんまり昔のことは覚えてないんだけど……。4歳の頃まではプレゼントがあったんだよ。
でも、5歳になったら、クリスマスにサンタさんからプレゼントをもらえなかったんだ。
それで、ああ、なんだ、サンタさんはお父さんだったんだって分かったんだ。」
サンタさんは目を閉じています。

「でもね、僕は毎年、クリスマスの朝に目が覚めると、真っ先にプレゼントをさがしたよ。
お父さんがこっそりサンタさんになって、僕にプレゼントくれるんじゃないかって。」

「残念だけど、わしはサンタだけど君のお父さんじゃなかった……」
サンタさんは少しかなしそうです。
「ねえ、サンタさん」
ダイがとつぜん、いすから飛び降りました。
「ちょっと待ってて」
ダイは部屋を出て行くと、そっと歩いてどこかへ行きました。
「じゃーん。」
ダイの両手には、グラスとジュース。
「これから、クリスマスのパーティやろうよ!ジュースしか、ないけどさ!」

もちろん、ケーキもありません。
明るいキャンドルもありません。
二人は、ただ少しのジュースを片手に、お話をしたのです。
サンタさんの今までのお仕事の話はとても愉快で、ダイくんのお話は
少年らしくって夢があります。それだけでごちそうでした。

朝が近いようです。サンタさんは名残惜しそうに、おおきな袋をかつぎました。
「おわかれになってしまうね。……なにか、欲しいものはあるかい?」
「サンタさん、メリークリスマスだよ。本当に、僕にはいいクリスマスだった。
メリーの意味って、"陽気"とか、"愉快"でしょう?誰かとクリスマスを過ごしたのも、
10年ぶりなんだ。それだけで何もいらないんだよ。本当は」
「そうか……。でも、なにか欲しいものがあるのじゃな。ほら、なんだ」
「それそれ。その、ぼうしがほしいんだよ。」
ダイは、サンタさんのぼうしを指差しました。
「こんな、きたないのでいいのかい?」
「サンタさんにあって、たのしかった記念だよ。おねがい」
サンタさんは、ぼうしをとってダイに渡しました。
そして、つるつるにはげあがった頭をなでて、
「すこし、さむいようだな」
と照れ笑いをしました。

「代わりに、これをあげるよ」
ダイが差し出したものは……
「これは、丈夫そうだ!」
野球のヘルメットです。それも、まっかなのです。
「僕が中学校でやってた部活のヘルメットだよ。
傷がいっぱいだけど、ちょうど赤いし、すこし大きいんだ」
サンタさんは、ダイからヘルメットをうけとると、それをかぶって
「ぴったりじゃ」
と、目をほそめてわらいました。

朝が起きだしました。
サンタさんはあわてて窓から出ると、トナカイにまたがってとんでいきました。
ダイは、いつまでも手をふっていました。サンタさんも手をふっていました。

…………
今日、はじめて本当のサンタさんをみたんだ。
本当のサンタさんは、そりに乗らずにトナカイにまたがっていることを、
ダイははじめて知ったのでした。

end