私は宇宙人ではない!

 ふしぎなニュースがあった。
海に沈んでいたシャコ貝の中に、大量の札束と少しの金塊があったというニュースだ。
シャコ貝はセメントで塗り固められ、はんだで封がされ、札束は丈夫な紙でつつまれており、
防水も気を使われていたらしい。
一体誰がこんなことをしたのか。何処から出た金なのか。しばしの間、世間ではその話題で持ちきりだった。

 趣味で小説を書いている私は、そのニュースをきいて、ぴん!とネタを思いついた。
その札束がシャコ貝に収められ、最終的に漁師の網によって引き上げられるまでの
紆余曲折を綴ったドラマだ。作り話をもっともらしく書くのが私の手法なので、ドキュメンタリーのような
リアルなストーリーが出来上がった。
その小説を、告白文のように仕立て上げ、ホームページの小説コーナーにアップロードした。

 小説を公開してから十五日たった朝、私が住んでいるアパートのチャイムがなり、
「警察のものですが」と寝ぼけた私をたたき起こしたのだ。

「ですから、あの話は小説でフィクションなんですよ。そう書いてあるし、私は関係ありませんよ」
警察は、私の小説を本当の話と信じて訪問してきたらしい。小説では語り手が犯人で、
犯罪や裏金工作を繰り返して作った金を貝に納めて海にしずめたことになっている。
警察は私が犯人では無いかと疑っているのだ。

 私の作り話はあっという間に広まって、ネットでは勝手にミラーサイトも公開されて、
小説は私の手を離れて行き「犯人からの不敵な告白文!」とあおりがついて週刊誌にも載った。
テレビでは「警察は、現在自称小説家の男から事情を聞いています」と報道をはじめた。

そうくるなら、私もとことん戦ってやる。自分の作り話を、造り物だと証明するのだ。
数々の偶然の一致を、偶然が起こり得る可能性とともに明示していった。
「あなたの告白文に出てくる札の番号が、実際の札と一致しているのですが」
「偶然です。私の生年月日にちょっと細工をした番号ですよ」
「テレビなどでは公表されていない、札をつつんでいた紙の種類が告白文に書かれていますが」
「耐水で、テレビに映っていた質感の紙といえば限られるでしょう。紙は好きで詳しいんですよ」
「告白文で、分解速度の速い毒を使って老人を殺したとあります。確かにその地域で三人の老人が変死していますが」
「あれほどの人口密集地なら、突然死されたご老人が三人いらっしゃってもおかしくないでしょう」

「大体、あなたは本当に小説家なんですか。本は一冊も出ていないようですが」
「普通の会社員ですよ。小説は趣味なんです、小説家というわけではありません」
警察官は、本が出ていないという理由で、私に小説がかけるわけがないという顔をする。

本など出さなくても文章は書けるのだ。小説がかけるということを証明する為、私はつぎの取調べまでに
「宇宙人の告白」というありえない話をもっともらしく書いた小説を仕上げた。原稿用紙に四十枚分、
ありえないけど本当にありそうな小説を書いたのだ。
これで、私の実力をわかってもらえるだろう。

しかし、その小説を読んだ警察官の顔色はすっと青く変わった。慌てて部屋を出て、
三時間後に戻ってきた時には、白衣の大学教授と一緒だった。
「もっと、君の星の話を聞かせてくれないか」

ぽかーんとクチをあけて呆ける私の前に座り込んだ教授が、興味しんしんの笑顔で私に語りかける。
「君がやってきたという星ね、以前から学者の間では真偽の意見が半々だったが、君の来訪で本当にある星だとわかった。
そのうち宇宙船があの距離まで到達したら、真っ先に君の故郷を訪ねることにするよ」

「あの、さっき渡した文章は……」
「すばらしい告白文だった」
「いえ、作り話なんです」
「そんなことをいまさら言わないでくれたまえ、わかっている、この話は世間にはナイショだ。
アメリカに研究所があって、『君のような来訪者』が何人かいるよ。今すぐ一緒に出かけよう。
われわれは君の事を歓迎するよ。先般の札束事件も、なにかのっぴきならない事情があったんだろう?
その話もぜひ聞かせてくれたまえ。大丈夫、罪にはとわれないようにキチンと処置をするよ」

「あのう、だから……作り話なんです。私は宇宙人ではないのです」
「わかるよ君の気持ちは。長く地球に住み、地球を気に入ってくれたんだね。宇宙人ではなく、
すでに地球人だと言ってくれるのは地球人として本当に嬉しい。君を仲間として迎えたいんだよ」
「私は宇宙人ではない!」
私は叫ぶことしか出来なかった。震えがとまらなかった。
「私は宇宙人では、ない!」
何度も叫んだが、潤んだ目に見えるのは、どこまでも笑顔でうなずいて理解を示す態度の教授だった。

end

(c)AchiFujimura 2004/10/26