サンタと現金

 クリスマス・イブの夜、子ども部屋へ密かに進入したサンタは、
眠っている兄弟の枕もとへそっとぬいぐるみを置きました。
お兄ちゃんは九歳ぐらい、弟は五歳ぐらいのかわいい兄弟です。

すやすや眠る二人の兄弟の顔をかわるがわる眺めた後、サンタはお部屋から去ろうとしました。
「ちょっとまってくださいよ、ぼくはぬいぐるみなんて欲しくない」
思わぬ声に驚いて、サンタが振り返ると、ぬいぐるみのクビねっこをつかんだお兄ちゃんが立っていました。

「おやおや、ぬいぐるみはきにいらなかったかね」
「きにいらないさ、こんな子供だまし。かわいいだけで、ちっともぼくの生活を潤さないしね」

サンタは「困ったな」という顔をして、
「どんなプレゼントが欲しかったか聞かせてくれるかい?」とたずねました。

「プレゼントなんていらないよ。現金だ。お金をくれれば、ぼくが好きな物を買うさ」
「お金は出せないんだよ……もらったお金で買う予定のものをいってごらん」
「まだ決めてない。お店に行って、よく検討してからでないと、失敗するからね。
ぼくは衝動買いはしない主義なんだ」

サンタは困ってしまって、うーんとうなりながら考え込みました。
「そもそも、毎年ぼくらは親にプレゼントをもらっているのに、今年はどうしてサンタが来たんだ」
お兄ちゃんがふしぎそうな顔でサンタに質問しました。
「それはね、今年はお父さんやお母さんからのプレゼントがなかったんだよ。忘れたか何かしたんだろう、
そういうときにはわしらが代わりにとどけているんだよ」

「なるほどね!親にはお得なシステムだね、ぼくは親になったら、毎年クリスマスはサンタに任せることにするよ」
お兄ちゃんはにっこり笑いました。サンタも笑うしかありませんでした。
「サンタさん、今年はこのぬいぐるみをいただくよ。ありがとう。弟の分もありがとう。
朝起きたときに、ガッカリさせずにすんだよ」

なんだ、お兄ちゃんも子どもらしくてかわいいな。キチンとお礼を言って、無理を言い続けない。
賢い良い子だ……とサンタは感心して、お兄ちゃんとわかれ、夜の空に消えていきました。

お兄ちゃんは二つのぬいぐるみを抱えて、そっと部屋を出ました。まだあかりのついている居間では、
お父さんとお母さんの話し声が聞こえます。

「ああ、どうしよう。今年はプレゼントをすっかり忘れていた。明日の朝、二人ともガッカリするだろう」
「あなた、私ががんばって二人分の手袋を編むわ……なんとか間に合わせますから」

「そのひつようはないよ」
お兄ちゃんはそっと扉を開き、両親に声をかけました。
「あらっ!まだ寝ていなかったの……聞いてしまったの」

おおきいぬいぐるみを差し出したおにいちゃんは、驚く両親に向かって言いました。
「このぬいぐるみを、あの子のプレゼントにしたら?こないだぼくが自分で買ったんだけど、
そういう事情なら仕方ないよね。あの子、寝る前も楽しみにしてたよ……朝起きてガッカリしないようにさ」

「ぬいぐるみは、3,800円(税込)だったよ」

クリスマスの朝、弟は大きなぬいぐるみにとっても喜んだ様子でした。
「ありがとう、助かったよ。これで好きな物でも買いなさい」
お父さんは、3,800円と、オマケに1,000円をお兄ちゃんに渡しました。


お兄ちゃんは、4,800円で結局なにを買ったのかって?
本当に欲しいものを探してお店で検討を続けていたのですが、そのたびに100円や200円の
アイスクリームやジュース、文房具を買っているうちに、4,800円なんてすぐになくなっちゃったってさ。

end

(c)AchiFujimura 2004/12/25