世界が終わるバクダン
その頭が良い少年は、この世界にあきれ果てたので、自分の手でつぶそうと考えました。
「何でだれもこの世の中をつぶさないんだろう、それは僕以外のすべての人間は頭が悪く、
くだらない人間だからだろう」
自分以外がくだらない人間だと気がついたのは、十三歳のときでした。
大きなバクダンで世界を破壊しようと考えた少年は、ノートにバクダンの作り方を沢山書きました。
「かんぺきな時限爆弾ができたぞ。これで、僕の仕業だと気づかれることもなく、
くだらないものを壊すことができるんだ」
初めて作ったバクダンを黒いナップザックに入れて、少年は明るい春の日に家の外へ出ました。
たんぽぽが咲き始めた土手を越えて、あの地下鉄の駅までたどり着きました。
黒いナップザックにはお茶のペットボトルがひとつ。
これは「青い光」に反応するのです。青い光を少しあててやれば、とたんに爆発するはずです。
実験をしたことはないけど、ノートにはそう書いてありました。
多分爆発したら、世界が消し飛ぶでしょう。ノートにはそのように書かれていました。
ノートには間違いがありません。
先生が黒板に間違えて書いた文字だって、少年は正しい文字をノートに書くのですから。
地下鉄の入り口に置かれた爆弾は、青い光の合図で爆発します。
みんなが叫んで地上は火の海になるけれど、少年は一足先に地下にもぐっているので大丈夫。
誰もいなくなってから、電車がやってきたら、少年は電車に乗って続く線路をひとりでどこまでも旅するのです。
地下鉄の入り口に到着して、ナップザックを下ろしました。
交差点は行き交う人も少ないのですが、バクダンを置くところをみられる心配はありません。
普通のペットボトルだから、だれも気がつきませんよ。
信号が赤になったとき、ペットボトルのバクダンを取り出しました、あの信号が青になれば
バクダンが爆発するのです。
ドカン。小さな破裂音がして、少年は飛び散りました。
南北の信号は赤になりましたが、東西の信号は青だったのです。
バクダンの威力はノートに書いてあった通り、ひとつのくだらない世界を飛び散らせることができました。
消えた少年は、残した夢の中でひとり地下鉄に乗りました。
線路はどこまでもつながっているように見えて、電車はただ短い距離を往復しているだけでした。
少年はそれでも地下鉄に、いつまでも乗り続けているのです。
end
(c)AchiFujimura StudioBerry 2006/4/21