大雨
大雨が降り注いだ夜に、私の住む平和な川底は、濁流でめちゃくちゃになっていました。
次にどこから襲ってくるのかわからない川の流れと水圧に、ただでさえ若くて華奢な
私の体は「そこにとどまること」どころか、前後も上下も分からない状態でした。
わけがわからないことがわからなくて、気がおかしくなりそうな気持ちをおさえながら、
両親が言っていた言葉と知恵を思い出していました。
「茶色の水がたくさんやってきたら、水の底にしずんでじっと膝を抱えるんだよ」
「なるべく深い穴の中と、水の流れない場所をさがして、じっとこらえるんだよ」
なんとかそのような場所を探し当てることができた私は、そこでじっと膝を抱えてこらえました。
お父さんお母さんありがとう。どうか早く、大雨が過ぎ去りますように。
茶色い水は全部流れていってくれますように。
祈り叫ぶくちの中にも、硬い砂粒が容赦なく流れ込んできます。
そして次の日はくもり、その次の日は晴れ、そのまた次の日には水もきれいな透明へ戻りました。
また次の日も、その次も晴れたので、あんなに途切れることを知らなかった水はあっという間に減ってしまいました。
すると、私の周りは乾いてきたのです。
深い水の底だと思っていたこの場所は、実はただの穴で、新しい水は流れてこないのです。
いまは陽に温められて、乾いていくのみの、みすぼらしい穴なのです。
天からの水はあんなに川を増やしたのに、もうこの水溜りは日照って穴になるのを待つばかり。
水草と小石の影に隠れたって、この水が暑いのは変わりません。
お父さん、お母さんうらみます。
両親の言うとおりにしたら、私はこのように死んでいこうとしているのです。
この場合の逃げ出し方は全く教えてもらっていません。
私は気がおかしくなる輪郭もぼやけるような、薄い意識の中で、歌をうたいました。
あのむこうから ながれるみずの おかあさんはだれなの
かわをたどれば たどりつけるの おとうさんにあえるの
みつけたよ かわのこきょう
たいようと わたしのあいだ
その歌もお父さんとお母さんが教えてくれた歌でした。
end
(c)AchiFujimura StudioBerry 2006/7/26