靴下から産まれた

 サンタさんに何をお願いするか?
という質問が子ども達に繰り返されて、もうずいぶん経ちます。
それを聞いた大人たちは、一夜限りサンタに変身して、子どもの願いをかなえてあげるのです。

 ここにひとりの、願いをサンタへとどけてくれる大人すらいない不幸な少年がいました。
ジョニーは「サンタは天にいて、自分の願いを聞いてくれる」と信じて、
カギもろくにかからないような寒い小屋の中で、お祈りをしました。
「ぼくにもやさしい、パパとママが欲しいです」

 天は本当に見ているのでしょうか。
少年の小屋に、男がやってきたのです。
「ヘイ、それが君の欲しいものかい」
「あなたはサンタさんですか、赤い服ですね」
赤い革ジャケットとコール天のズボンを履いた男は「イエス!」と答えました。
「少年、名前は」
「ジョニーです」
「ヘイ、ジョニー、リトルボーイ。魔法の靴下をあげるよ。願いのかなう靴下さ」

 ジョニーは靴下を受け取って、その男が去っていく後姿を見ていました。
「魔法の靴下だって。大きくて暖かい」
靴下というよりただの袋でしたが、ジョニーがスッポリはいります。
ジョニーは中へもぐりこむと、そのまま眠り込んでしまいました。


 まるで赤子のように袋に丸まったジョニー。
 鈴のような音が、シャンシャン、シャンシャン、と夜空に響いて、
 ジョニーを優しく揺さぶります。


 豪邸の裏庭で、赤い革ジャケットとコール天のズボンを履いた男が、
二人の身なりの良い男女とひそひそ話をしていました。
男の金歯と女の宝石が暗闇でたまに光をはなちました。
「例のモノは用意できたのかね、コードネーム・サンタ。娘が待ち構えているよ」
「娘さんのご所望のものはコレさ。金と、銃三丁と引き換えだ」
男女は中身を確認して、金などが入った袋を渡しました。


 次の日の朝!
「パパ! ママ! サンタさんがプレゼントをくれたよ!」
豪邸の廊下をかけまわりながら、女の子が喜びの声をあげました。
「弟をくれたよ! ほしかったんだぁ、弟!」

 そのころなんだか騒々しいので目を覚ましたジョニーが、もそもそと靴下から 這い出てきました。
ステキな寝室、豪華なベッド。その脇に袋があって、ジョニーはそこから出てきたのです。
見ればかわいい女の子が、ジョニーのことを弟と呼んで喜んでいます。
恐る恐る見まわせば、そこにはステキでやさしそうな「パパとママ」。

 ジョニーをみつめて二人の身なりの良い男女は、
「歓迎するよ! ウェルカム、靴下から産まれた私達の子!」
にっこり笑う男には金歯が光り、上品に笑う女の手には宝石が光りました。


ジョニーに幸せが訪れますように!
メリークリスマス!


end

(c)AchiFujimura StudioBerry 2006/12/24


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