ドレイメ
それはある日とつぜんやってきました。
3人の若い男が、彼女の家に来たのです。
3人は真っ黒な服を着て、無表情のまま玄関口に立っていました。
"彼女"はいま13歳になったところでした。
「さぁ、一緒に来てもらおうか。まったく、困ったもんだよ。」
男の1人がいいました。
13歳の彼女……キヨコはきょとんとしていました。
この人たちはだれなの?なにをしにきたの?
……どうして私をつれていこうとするの?
お母さんの方を見ました。お母さんはうつむいています。
「ごめんね、キヨコ。」
「なんで、あやまるの。なんで、私はつれていかれるの。」
「あなたのことを女の子として育てていたけれど…。実は」
「そうだ、君は女ではない。もちろん、男でもない。
……そう、きみはドレイメなのだよ。」
キヨコはショックを隠せませんでした。
わたしがドレイメだった…。
ドレイメというのは、人間の第三の性。女でも男でもないのです。
人間が進化する上で手に入れた働くための性。
生殖能力もなく、寿命も短く、20年ほどしか生きない。
生きているあいだ、ひたすら男・女といわれる人間のために働くのです。
「さぁ、来てくれるね。君は働かなくてはならないんだ。」
「はい…。」
わたしがドレイメなら仕方ない。
お母さん、さようなら。
キヨコはそうつぶやくと、お母さんとお別れしました。
「ドレイメとはいえ、我が子です」
お母さんが小さくつぶやくと、
若い男の1人が冷たい目でいいました。
「今年うまれた俺の子供も、ドレイメだったんだ。早速市役所に届けて、
1歳から働かせろといったけどな。ドレイメはいい金になるよ。」
「そうだな。また、俺の子供もドレイメだったら良いな。
働かせるんだ、俺達がもっと楽になるように。」
「お母さん。駄目ですよ、ドレイメに名前なんかつけてかわいがってちゃ。」
「ペットにだって、愛情わいちゃうんだから、とにかく早く手放すことだよ。」
「13年もぬくぬく生きさせちゃ、使い物にならないじゃないか。」
「即刻、処分したほうがいいな。」
「そうだな、そのほうがいいな。」
「そうだ、そうしよう。」
シュパン、となにかの音がしました。
そしてキヨコはもう動かなくなりました。
「それじゃ、これはドレイメのえさにするから、もらってくぞ」
「ほれ、餌代。」
男は大金をなげだしました。
「こんなに」
お母さんは言いました。それはかなりの大金でした。
「ああ。13年物なんて、若い奴めったに手にはいらないからな。
普段は寿命すぎた奴が餌になってるから」
「よかった、最後にうちのキヨコが役に立って」
「そうだな、。なんだってドレイメを名前つけて飼っていたりしたんだい」
「だって、もうドレイメばっかり5人も産まれて、子供がいないんです。
寂しかったから。」
「そうかそうか。お母さんも、またちゃんと男か女が産めるよ。」
男はやさしく言いました。
もってきた袋にキヨコを詰めると、満足げに帰って行きました。
その夜、お母さんとお父さんは、おいしいごちそうを奮発しました。
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