ダイコン列車のシンデレラ

 シンデレラはパーティーに連れて行ってもらえませんでした。
理由はわかりません。他のお姉さまたちは、着飾ってパーティーへ行きました。
王子様のお妃選びも兼ねたパーティーだと噂されていましたので、お姉さまたちも必至です。

 留守番を余儀なくされたシンデレラは、家の掃除も手につかず、窓から遠くお城のある方向を眺めていました。

 連れて行ってもらえないからアタシにはチャンスがないわ。
 アタシのことを、王子様がただ見つけてさえくれれば、絶対アタシが選ばれるのに。
 あの平凡なお姉さまたちとアタシは違うんだから。
 アタシは数少ない選ばれた人間なのだから……

 シンデレラはため息をついて、
美しいシンデレラのことを妬んでパーティーへ連れて行かない姉をうらみ、
シンデレラと出会うチャンスがない王子様の不運をのろい、
シンデレラを虐げるかみさまを軽んじました。

「パーティーにいけなかった人ですね?」
誰かの声にハッとして、シンデレラが声のするほうを見ると、窓の下に身なりの良いこびとが立っていました。
「誰?」
「お迎えに上がりました」

 シンデレラは急いで一番お気に入りの服に着替えました。
「こんなこと」もあろうかと、化粧は既に済んでいました。
「お迎えって、何処へ連れて行ってくれるの?」
「良いところですよ」

「かぼちゃの馬車に乗るのね? あなた魔法使い?」
「あいにくですが、ダイコン列車です。かぼちゃなんかよりずうっと早く走る乗りものですよ」
シンデレラは、昔もらった飾り用のガラスの靴を履いて、精一杯のオシャレをしました。
「アタシがシンデレラだから迎えにきたのね?」
「それでは行きましょうか、パーティーにいけなかった人」


 シンデレラの胸は高まります。
ダイコンの形に良く似た乗りものは、滑るように夜の空を進んでいきました。

 はやい、はやい。
 ダイコン列車は夜の空を飛びます。
 中には、沢山のパーティーへいけなかった人たちが詰め込まれています。
 何処へ行くのかは誰も知りません。


end

(c)AchiFujimura StudioBerry 2007/02/22


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