時計の部屋
部屋に何個、時計がありますか。
その部屋にはたくさんの時計があって、それぞれが時を刻んでいました。
普通の部屋にはどれぐらいの時計があるのかわかりませんが、狭い部屋の中に、たくさんの時計が飾られているのです。
新しい時計が置かれたのは昨日の夜のことでした。
部屋の主人が夜に帰ってきて、その手には置き時計を持っており、棚の空きスペースに置かれたのです。
次の日の朝、部屋の主人が出かけてしまえば、時計だけがこの部屋の中で動いています。
新入りは角がちょっと丸く、黒いボディーと少しのシルバーラインが特徴のアナログ時計でした。
「新入りが来たんだな、またふえたのか」
「主人はいったい、時計が好きなのか、嫌いなのか」
ため息とコチコチ交じりに時計が会話します。
何処からともなく聞こえてくるつぶやきに、新入りが声をだしました。
「ご主人様は時計が好きなのですね」
「あの人が、時計が好き?」
「とてもそうは思えないな」
「みろ、私なんか電池がとっくに切れているのに、そのままにされている」
「私はハトが出る仕掛けが、ずっと動いていないのに、主人は気づきもしないよ」
「電池切れなんか良いほうだよ。僕なんかずっと、一分半ぐらい遅れているんだ。
電池切れなら一日に二回、正確な時を刻むけど、僕はどんなに追いかけても時間に遅れてる。
これが時計にとってどんなに苦痛か」
「オレは正確な時を刻む電波時計だけど、寂しいもんだぜ……電池交換のとき以外、
触れられもしない。寂しい、寂しいよ」
「腕時計なのにケースに入れられて、外の空気を吸ったことも風を感じた事もない!」
「私のアラーム、いい声で鳴くのに、聞いてもらったこともないよ」
「つまり、あの人は時計を見ていないんだよ、新入りくん」
みんな忘れてしまったけど、新入りは昨日の事なのでまだ覚えていました。
あの人は私の黒いボディと大きさを気に入ったと店員に話していた。
わたしたち時計が、どんなに時計として本分をまっとうできなくても、
あの人はわたしたちのみてくれを愛してくれているのだと。
でも、この部屋の時計はみな思うのです。
「私は愛されていない」と。
end
(c)AchiFujimura StudioBerry 2007/04/20
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