特急探偵

 昭和の時代から数々の難事件を解決してきた名探偵、高橋。
必ず特急電車に乗り推理する事から、「エクスプレス高橋」と呼ばれ、頼りにされてきた。

 エクスプレス高橋は並外れた発想と推理力で事件を解決するのだが、
如何せん飽きっぽい性格のため、落ち着いて考えをまとめる事が出来ない人間だった。
特急電車に乗れば降りるまでの間、拘束される事になり、考え事に集中できるのだ。
ひとたび駅についてしまえば「そうだ、温泉」「ひつまぶし食いたい」「ぶらり古都散策」など
数々の誘惑に負け、高橋は事件の推理をやめてしまうのであった。


 五月のさわやかな日差しの中、高橋は「のぞみ」に乗り込んだ。
東京を出て、次の駅は名古屋だという。

 どうしてもういろうが食いたくなった高橋は、のぞみから名古屋で降りてしまった。
その間、約百分。難事件を解決する事は出来なかった。
さわやかな風が吹くコンコースの売店でういろうを買い求め、その場で剥き食べ始めながら、
「近頃は電車も速くなって、私の考えがとても追いつかないようになってしまった」
と、五月晴れの青空を見上げながらしみじみとため息をついた。


end

(c)AchiFujimura StudioBerry 2007/05/24


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