ささのはにねがいごと
七月七日はたなばた様の日で、たんざくに願い事を書いて吊り下げれば、願いがかなうともっぱら噂です。
願い事をきいてくださるのは、ササノハ様といって、若くて、明るい黄緑色のからだをしていらっしゃいます。
ササノハ様たちは、人間たちの願い事をたくさんかなえれば、たなばた様に褒めていただけるので、
こぞって願い事をかなえてやるのです。
ことしも笹に下げられた、たくさんの願い事を見ながら、ササノハ様たちはかなえる願い事をさがしていました。
「誰のお願い事を、かなえてあげようかな」
「おいしいお魚がたべたい」と書いた魚好きの少年には、さっそくおいしい魚が与えられました。
カンカンカン! とかねが鳴り、ササノハA様はたなばた様に褒めていただけました。
「ササノハAが褒めてもらっているぞ」
「わたしもがんばろう」
ササノハ様たちがたんざくを見てまわります。
ササノハB様と、ササノハC様が「どれも自分には難しそうだ」と悩んでいるうちに、
ついに最後の二枚になってしまいました。「どちらかをやらねばならないぞ」
難しそうな二枚です。
どちらも「しあわせになりたい」と、あいまいな願い事が書かれているのです。
叶えてあげるのが難しいので、最後に残ってしまったのでしょう。
ササノハC様は、どちらがどちらの願い事をかなえるか話し合おうとしましたが、
ササノハB様は「わたしは、右のほうをかなえる。右の主は不幸な人間だから、
しあわせをあたえるなど、たやすいことだろう」
ササノハ様たちには、人間の幸福度・満足度を見るちからがあります。
そのちからで、願いがかなったか見極めるのですが、たしかに右の短冊の主は
「ものすごく、不幸」のようです。
左のたんざくを受け取ったササノハC様は
「もともとしあわせな人間に、なにをしてあげたらいいのだろう」と悩んでしまいました。
左のたんざくの主に、ササノハC様は精一杯のしあわせを与えてあげたいと思いましたが、
まったく思いつきません。なにをしてあげたら、あの子はもっとしあわせになるのかな?
若い女性の願いでしたので、ササノハC様は彼女の家のいりぐちに、天の川で咲いている花を
一輪、咲かせてあげました。
「まあ、キレイな花が咲いた。お母さん、キレイな花が咲いてるの」
彼女は明るい声で、老いた母を家の中から連れ出して、二人で花を眺めました。
カンカンカン! かねが鳴り響きました。彼女はしあわせになったのです。
ササノハC様は、女性が幸せになったことを、何よりも嬉しく思いました。
ササノハB様は、右の主の女性にもしあわせを与えなくてはと焦りました。
ところが、どうやってもしあわせにならないのです。
キレイな花は右の主の目にはうつらないようです。
おいしい食事もテレビを見ながら片手間にかきこむように食べ、気づかない様子。
美しい景色を横目に「どうせ私は」と世の中をうらんでいるようでした。
すてきな男性にも彼女は不満ばかり。お金も、洋服も、彼女を満足させませんでした。
なにが彼女を、しあわせな気持ちにすることができるんだろう?
結局、ササノハB様は右のたんざくの主をしあわせにすることは、出来ませんでした。
彼女が一番しあわせを感じたときは、隣の奥さんが離婚したときと、他の国で戦争がはじまったときだけだったのです。
end
(c)AchiFujimura StudioBerry 2007/07/07
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