天国の広場で
死後の世界で、みんなに再会できます。
そんな話を誰から聞いたのか、今となってはわからないほど、いろんなシーンで語られた話です。
死後の世界に行ってから帰ってきた人はどうやらいないようですから、
その話が本当なのかもわかりません。
だからこそ、私が老人になって人生を終えたときに、何者かから
「これからあなたは死後の世界に行くのです。だれもがそこへたどり着くのですよ。」
と聞いたときには、感動しましたよ。
私にも、人並みに「会いたい人」がいましたからね。再会への期待で震えました。
死ぬのも悪くないな、と。
しかも思いもしなかったサービスがあるようです。
「あなたが一番楽しかった時代の姿に戻れますよ」
老人の体の動かしにくさには飽き飽きしていたところです。
死んでからもこの調子だったら、死後の世界も楽しめないでしょう。
一番楽しかった時期……そうだな、親友のAと毎日笑って、Kと遊んで、Tと泣いた。
あの十一歳のころに戻りたい。
私は十一歳の子どもの姿になることを希望しました。……こんなに身が軽いとは、想像していませんでした。
私はひとしきり子どもになった体を動かして遊びました。
駆け回ったり側転をしたりしていると、遠くに広場が見えてきました……
そこには懐かしい人たちがたくさんいました。
ああ、あの人もいる、この人もいる。うれしくて駆け寄った私ですが、
「ダレ? この子……」
「子どものころに死んじゃったってことかな? かわいそうに」
みんなが知らない子どもを見るように、私の背丈までかがんで話かけてきます。
「私だよ。小学校のころに同じクラスだったよね」
私は名前を名乗って、出身小学校とクラスを言いました。
「あっ! おまえか、なつかしいな。なんだってそんな子どもに戻ってるんだよ」
友人たちは私のことを思い出してくれたようです。
しかし、友人たちはみな二十代から三十代の姿で、そのころの話題を楽しそうに続けていました。
あのころが一番楽しかったなんて、思っていたのは私だけだったんですね。
私は広場から離れ、二度と彼らには話しかけることはありませんでした。
end
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