働く、食べる、ロボット



 未来から、かわいいロボットがやってきた。
どの動物にも人にも似ていないけど、丸い胴体に丸い頭が付いていて、手足のようなものがあるから、生き物のような親しみを感じる形だ。

 ロボットNS-2125は日本の一般家庭に住み着いた。未来でも日本あたりにいたらしく、愛らしい声で日本語をしゃべる。
未来では一方通行の、生き物以外しか送れないタイムマシンが開発されたようだ。
NS-2125はタイムマシンの実験台に自ら志願して、この1970年へタイムスリップしてきたのだ。

 ロボットは未来から来たものなので、便宜的に「ミライモン(未来者)」という名前を与えられた。
1970年の時代では、こんなふうに歩いてしゃべるロボットなんてマンガの世界にしかいない。
技術者たちの高い関心を得て、ミライモンは大事に保護・観察されることとなった。

 このロボットのエネルギー源は人間の食べるような有機物だ。
分解して余すことなく熱に変え、効率よく機械を動かしていく。
ミライモンはまた、よく働く。食べた食物以上の働きをするので、家庭でも仕事でも大変重宝がられた。
人間では入れないような場所へも進んで入っていく。
工事現場では一緒に働く人間に、おにぎりを分けてもらって、午後の暑い時間もよく働いた。
「未来には、かわいくて、よく働くロボットが開発されるんだな」
ミライモンの姿を見ると、誰もが未来への希望を胸に抱いた。

 「ミラちゃん、ご飯よ」
「お母さん」の声がする。ミライモンは元気な返事をして、子守を任されている子どもをつれて食卓へ降りた。
今日はとんかつと、煮物と、お味噌汁と白米のごはんで、ミライモンはゆっくりかみしめるように、丁寧にご飯を食べた。
「ミラちゃんの大好きな、大福もちもあるわよ」
お母さんはデザートのかわりに大福もちを用意していてくれた。
それもおいしそうにたいらげると、暖かいお茶をすすった。
「ミラちゃんはご飯に贅沢も言わないし、おいしそうに食べてくれるからうれしいわ」
お母さんが笑顔で皿を片付けながらつぶやく。

 ロボットNS-2125は未来の世界での、自分の生活を思い出していた。
剥いた果物の皮、落とされた野菜の根っこ、しけたクッキーともう食べないほうがいいジャム。
拾った卵、のこった尻尾、死んだペット……
未来での食事、つまり燃料補給はそんなものばかりだった。
NS-2125は高性能生ごみ処理機だ。仕事内容をクリーンなイメージにするためだけのかわいらしい見た目と声。
生活で排出される生ごみを、自ら集めて処理する為の移動能力と言葉だ。
もちろんその仕事にギモンを持ったことはなかったけれど、ある日知ってしまったのだ。
ロボットにも人間と同じように接する人々が、昔、存在したことを。
人間とロボットが食卓を囲む、暖かい光景の絵があることも知った。

 そしてNS-2125は過去への実験台として志願した。
ロボットでさえもためらうような「時間移動」をし、過去からの通信が可能かをテストする。
それが本当の使命だった……

 NS-2125は過去に無事たどり着いてすぐ、通信機能を壊してしまった。
未来では実験失敗とされて、また新たなタイムスリップ技術の開発が待たれることだろう。
NS-2125は2個目の大福もちをそっとつかんだ。
明日も精一杯、働くと決心して。


end

(c)AchiFujimura 2011/6/13




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