けしきのスバラシイリゾート地にある スティンガーホテルにはいろんなお客様がきます。 その日も、ふしぎなお客様が来ました。 「お客様は普通の方ですね」 「え?」 フロントでチェックインの最中だった男のお客様は顔をあげました。 見た感じ、普通です。Tシャツをざっくりと着込んで、ジーパンで、 さほど多くも無い荷物を肩にかけています。 年の頃は20代半ばでしょうか。 「なんで。おれが普通だったらどうなんだい。」 お客様は笑いました。 「いえ、当ホテルには、一風変わったお客様がおおいものですから。」 「そうかそうか。実は、オレも普通とはいえないんだ。」 「と、いいますと。」 「おれには、その日死ぬ人がわかるんだ。死ぬ人は、その日はしきりに足跡を残すんだ。 その足跡、実はずっと残るんだよ。おれにはそれが見える」 お客様がそうおっしゃると、フロント係はカウンターを飛び出しました。 「私は!?私はどうでしょうか!?」 「あはは、大丈夫だよ、君の足跡はついていないよ。」 お客様は大笑いです。でも、フロント係はほっと胸をなでおろすのでした。 「それじゃ。おれは部屋でのんびりしようかな。」 お客様がお部屋に向かおうとした時、後ろの方でさささっと中に入っていった人がいました。 「!!」 「どうかなさいましたか」 「あの人、足跡を残して歩いている。今日、死ぬんだ」 「それはそれは……どうにもならないのですか。」 フロント係はいたって落ち着いています。 「いままで、食い止められたことはないんだ。でも、おれは、食い止めなくては」 急いでお客様は走り出しました。 「お熱いお客様だ」 「あら、支配人」 「死ぬ運命の人は、どうしてもくいとめられないのだろうに。」 「そうですね。支配人」 死ぬ予定の人は、女の人でした。彼女は足跡を残しながら、早足で上へ行きます。 お客様はその人を、ずっと追いかけて行きました。 ホテルの28階で、彼女は階段を上るのをやめました。そして、廊下の突き当たりにある小さな窓をあけて、 そこから身を乗り出しました。 「あぶない!なにをするんだ!」 お客様は彼女を止めようと、後ろから腰に巻き付きました。 でも、彼女の死のうとする勢いは強かったのです。 「ああ!」 お客様をくっつけたまま、彼女はまっさかさまに落ちてしまったのです。 お客様は地面に打ち付けられて即死でした。 しかし、何というきせきでしょう。 彼女は生きていたのです。ぴんぴんしています。 お客様がクッションになったのでしょうか。それでもきせきです。 落ちた時の音に驚いて、フロント係も支配人も外に出てきました。 「あ!お客様!」 死ねなかった彼女はまたホテルに入って行きました。そして、28階までもう一度上がって、 再びまっさかさまに落ちてしまいました。 彼女も今度は即死でした。 「なんということでしょう。結局、お客様は死ぬ予定の人を助けることが出来なかった」 「予定ではなく、確定だったんだね」 支配人もフロント係も、悲しい二人を見つめていました。 「お客様は、自分の足跡には気がついていなかったのでしょうか」 「……何でも、たまには振り返ってみることがたいせつということですね」 「そうですね。支配人」end |