全部死にたかったわけでもない
「まだ若いんでしょう」
私もそう思います。
「なぜみずから……」
私もそう思います。
「もっと早く相談してくれれば」
ごめん、あなたにはどうにもできない。私はおかしくて吹き出してしまった。
ここは私とのお別れの場。私は死んでしまったのだろうか。
まるで天井がないかのように、高く、上のほうからその場を見下ろしている私だけど、
実体を感じない。ふわふわしてしまっている。
「やっぱり死んだんだろうな、私は」そう思った。思い当ることもあった。
ずっと死にたいと思っていたからだ。
その瞬間は覚えていないけど、きっと「とうとうやっちゃった」んだろう。
私はダメな人間だ。そういう思いで胸がいっぱいになることもあった。
そういうときの対処法は知っている。いいところを探すのだ。
私にはいいところや、人より有利なこともあるし、もしかしたら……優れているところもあったと思う。
実際「私はダメ人間なんです」と人に吐露すると、私がいかに恵まれているか。ダメ人間ではないか。
そういったことをたくさん聞かせてくれるけど、叱られているような気持にしかならないので、
最近はあまり人に言わないようになっていた。
「どうして。僕とはあんなに愛し合っていたのに」
私のための祭壇の前で、人目もはばからず涙を流す人がいた。
恋人だ。そう、そうだね、あなたは私のことを愛してくれて、私もそれを疑ったことはなかったし、
私もあなたが好きだった。
「あなたに愛されてあなたのことが好きだった私」は死にたくなんかなかった。
「結局僕ではきみの死を止められなかったのか」
あなたを見ていると胸が締め付けられる。泣かないで。
死にたかったんだけど、私を全部殺したいとは思ってなくて、
できるものなら私は私の死にたい部分を殺したかったんだよねー。
だけど死んだら、死にたくなかった部分も一緒に死んでしまった。
「僕と愛し合っている間も君は死にたかったのか……」
違うよ。
「愛していたんだね。あなたは悪くない、ただ彼女が死んでしまったんだ」
違うよ、ずっと死にたかったわけでもなければ全部死にたかったわけでもない。
私はぐらついてしまった。
ふわふわした私はぐるぐると回り始める。ふわふわしているから回る私を止められない。
ずっと死にたかったわけでもなければ全部死にたかったわけでもない。
全部死にたかったわけでもない。
全部死にたかったわけでもない。
私は夢から覚めた。
死んだと思ったのは夢だったのだ。
体が重くて、地面に吸い付けられているかのようだ。
そして心の中に思いが充満した。
夢じゃなければよかったのに!
end
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