感動の条件



そうして人類は永遠の眠りについた。

こんな終わり方の話が悲劇でないはずがないのに、私はまたしても、いまいち感動することができなかった。
古いベストセラーの小説だが、フィクションといえどその結末に至るまでもしっかりドラマがあって、その世界に生きた「人類」の悲しみと喜び、そして抗えなかった絶望のすべてが涙を誘いそうではあるのに、私は一切感動することがなかった。

私は昔書かれた”小説”を読むのが趣味で、見つけると片っ端から読んでいる。
しかしこの話だけじゃなく、ほかの小説を読んでもほとんど同じで感動が湧きおこらない。感動したくて小説を読んでいるのに。かなりヒットした小説のようだし、当時の人間はみな心を動かされたのだろう。それに比べて私は感受性が低いのかもしれない。

「なあ、これで感動できない私は心がないのだろうか? お前はどう思う?」
私はパーテーションの向こうにいる友人にたずねた。友人は少し考えるように「うーん」とうなり、答えを導き出した。

「”小説”ってあんまり読んだことがないから的外れかもしれないけど、表現がおれたちに合ってないんじゃないかな? 普段使っている言語とかけ離れた表現でつづられていると、理解までにワンクッションあるし、ある意味で翻訳が必要になるだろ? 最初からおれたち向きの表現に変換して読めばグッとくるんじゃないか」

なるほど。たしかにこの小説は人類の歴史の中では晩年に書かれたものだが、現時点から考えると相当な古典の作品だ。私にわかる言葉で読まなければ理解できないのかもしれない。そもそも小説というものは人類しか書いていないわけだから、私たちが小説を読みたいと思ったら「古典」を紐解くしかないわけだが。

私は早速、友人のアドバイス通りに翻訳機に”小説”を突っ込んで、改めて私たち向きの表現で読み直すことにした。

なんと美しく、切なく、私の心を締め付ける話なんだろう。これはこういう話だったのか。人類への理解がどんどん深まっていく。そして最後の文章までたどり着いたとき、私は震えてとうとう”感動”したのだ。
「111000111000000110011101111000111000000110000110111000111000000110010111111000111000000110100110111001001011101010111010111010011010000110011110111000111000000110101111111001101011000010111000111010011000000110100000111000111000000110101110111001111001110010100000111000111000001010001010111000111000000110101011111000111000000110100100111000111000000110000100111000111000000110011111111000111000000010000010」


end

(c)AchiFujimura 2022/6/5



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