信じる

今日は、田舎からイトコが遊びに来た。
おれと同い年の女の子だ。

ここ3年ほど、彼女は山奥でひとり自給自足の生活をしているらしい。
たまには都会もいいだろ、といって半ば強引におれがつれだしたわけだ。

「いつでも、散歩にでかけていいからね。はい、合鍵」
おれは合鍵を渡して仕事に出かける。
でも、仕事から帰ってきても彼女が外に出かけた気配は全く無い。
ずーっと、家の中でおとなしくしていたみたいなのだ。
多分、都会が久しぶりだからこまっているのだろう。
次の日は仕事もやすみだったから、彼女を連れて外をあるくことにした。

嫌がる彼女を引っ張って、表に連れ出した。
ウィンドウショッピングをしたり、彼女の好きな本を買ったり、
お茶をのんだりとなかなか普通に一日がすぎていく。

ただ、やっぱり外でも彼女はちょっと変だった。
口に入れたハンバーガーを飲み込むのに時間がかかったり、
びくびくして交差点を渡ったり。
子供連れの若い女の人をみてビックリしたり。

家に戻ってきた頃には、彼女は震えておびえていた。
「どうしたんだい。何がそんなにこわいんだい。」

「何がって……。」
彼女はようやく口を開いた。とおもったら、こっちをすごい目で見るのだ。

「あなたは」
「どうして、そんなに人を信用しているの」
「私はこわくてこわくてたまらないのに」

「なんのこと?そんなやたらに信用しているつもりはないけど。」
僕が、半分笑ったように言うと、彼女は座り込んでしまった。

「都会の人って、みんなあんなに人を信用しているの?」
「ええ?都会の奴等って、みんな人を疑ってばかりだぜ。孤独だしなぁ。」

「うそ!うそ!」
「だって、何の肉かわからないのに安心してハンバーガーをたべた。
 どこの水かわから無い紅茶をのんでた。
 落とされるかもしれないのに、赤ちゃんは親の腕の中ですやすやねてた」

「……」

「誰が悪い人かわから無いのに、平気で人とすれ違ってた、
 運転手のハンドル操作を信じて、道路の横をあるいてた、
 ぜったいおかしい。みんな狂ってるよ。お人好し過ぎるよ、
 どうしてそんなに他人を信じるの。」

そう言われてみれば、確かにそうだった。
ビーフ100%とかかれていたら、牛肉だと信じて飲み込んでいた。
母親も、抱かせてといわれたら平気で赤ちゃんを他人に抱かせるんだろう。
そうして、自分には災いは降りかかってこないんだと安心して道を歩いていた。
……でも、

「おかしいよ。そんなに神経質になるなんて。
お前、ちょっとへんだぞ。」

「私の弟は3年前」

おれは、その言葉でハッとした。

「無意識に人を信用しすぎていたせいで、すれ違った通り魔に刺されて死んだのよ」

おれは、もうなにもいえなかった。
彼女は、おれの運転におびえながら山奥の家へと帰っていった。

end