私は風船

私は真っ赤な風船として産まれました。
縮んだまま、ある倉庫で数年間すごしました。
それはそれは真っ暗闇で、自分が真っ赤なこともわからなかったくらいです。

ある日、ついに外に出る日が来ました。
外に出て、膨らんだなら私の命は1週間です。
でも、良いんです。その間に空を一生懸命飛ぼうと決めているのです。
むしろ、旅立ちは楽しみでした。

デパートの入り口で、私は自分の順番を待ちました。
さぁ、ついに私の中に軽い呪文が流れ込みました。
ぷぁっと膨れて、幼い人間に渡されました。
人間は私をとっても気に入ったようで、ひもにつないで喜んでいました。

ふわふわと、念願の空の旅です。
人間があちこちに連れて行ってくれました。
そして、突然人間が私を放してくれたのです。
かわいい人間。私との別れを、ワンワン泣いて悲しむのです。

ずっとずっと飛んでいきました。
平凡で良いんです。ただ、飛んだ風船として生きたい。
そんな平凡な私でも、神様が見ていてくれて。
きっと私にささやくのよ。「平凡なおまえだけど、私はその存在を知っている。」

数日たって、わたしはだんだん地面に近くなっていきました。
……風がなくなると、私は地面にキスをしてたたずむしかないのです。
そよそよと、人間の建てた箱の間を吹く風だけが私の足です。
少し進みました。
人間が私に何か叫びます。
バイクというものにまたがった人間は、私をよけて倒れました。
バイクはくるくるきれいに回転して、向こうの壁にぶつかってブツブツなにか言っています。
人間は私と同じように地面にキスをして。
そのまま動かないのです。

かわいそうに、風がやんでいるからだわ。
風さん。この人間にも吹いてあげて。
地面にキスをしたまま、動けないで困っているのだから。

end