とりちがい

その喫茶店はペット同伴不可でした。

飼い主の女の人は、入り口に犬をつなぎました。

今度は男の人が来ました。その人も犬を連れていました。
犬が一緒では喫茶店に入れないので、入り口に犬をつなぎました。

犬たちはビックリしました。
だって、2匹はそっくりだったんですもの。

そのうち、最初に入った女の人が出てきました。
まちがえて、あとからつながれた犬をつれて行こうとしました。
「ワンワン!ワンワン!」
2匹とも泣きました。
「まぁ、そっくりなワンちゃんがいるわね。」
女の人は、自分の犬をみてそう言いました。
「違うの。僕があなたのうちの犬なんです。」犬は頑張って鳴きましたが、きづいてくれませんでした。
連れられていく犬の方は、驚いてワンワン鳴いています。「僕は違うよ!」
女の人は、繋がれたままの自分の犬に向かって、
「うるさい犬ね。うちのワンちゃんに吠え掛かるなんて、しつけた飼い主の顔が見たいわ。
うちのワンちゃんとは、顔だけしか似てないみたいね。」
そう睨み付けると、帰っていってしまいました。

いつもやさしいあの人が、どうして僕をわかってくれなかったんだろう。
犬は首をうな垂れてそのままそこでおとなしくしていました。

「またせたね。」
あとからきた男の人が出てきました。
「ちゃんとまってて、偉かったね。」そういって、僕をつれてお店を離れました。
「違うんだ。あなたの犬は、僕の飼い主に連れて行かれたんだよ。」
目で訴えかけましたが、この男の人はやっぱり気がつきません。
きのせいか、男の人の目は寂しそうに見えました。

男の人の家に着きました。
すると驚きました。猫が居たのです。
しかもその猫は、本当の飼い主の家にいる猫とそっくりだったのです!
「あら、あなた。そっくりだけど、違う犬ね。」
さすがに猫は、ニオイの違いでわかってくれたようです。
「そうなんだ。同じお店の前につながれた時、間違われちゃったんだ。」
「まぁ…大変。わたしが、あなたのおうちに様子を見にいってあげる。」
猫は、犬の本当のおうちへの道順を聞くと、外にひらりと出て行きました。
犬はおとなしく待ちました。

猫はすぐに帰ってきました。
「早かったね。どうだった?」犬がきくと、
「イヤァね。なんのこと?私、あなたの家で一緒に住んでた猫よ。
迎えにきたのよ。そっくりなワンちゃんに、事情は聞いたわ。」
「そうだね。君が迎えに来てくれたら心強いや。うん、帰ろう」
犬と猫は窓の方へ走っていきました。

でも、男の人に見つかってしまいました。
「さぁ、こっちにきなさい。」
男の人が来ました。「なにすんのよ!」猫と犬は抵抗しましたが、檻に入れられてしまいました。
車にのせられました。「どこに行くんだろう。」2匹は体を寄せ合って、おびえていました。
ついた場所は、ペットショップでした。

2匹は売られてしまったのです。
男の人は、泣きそうでした。「ペットが駄目なマンションに引っ越すから、お前たちを連れて行けないんだ。」
ペットショップでお金を受け取って、男の人は帰っていきました。
2匹はシュンとして、檻の中で丸まっていました。
夜も深まった頃、キューン…と悲しげな声がして、2匹は目がさめました。
「なんだい。」「まって、見てみる。」猫が目を見開いてよーく見ると…
なんと、鳴いているのは2匹にそっくりな猫と犬でした。
「あ、あなたたち!」
猫が驚いて声をかけました。
「君たちも売られたのかい…!!!どうして。」
「僕たちは、帰りたかったからあの女の人に噛み付いちゃったんだ。
そしたら怒って、ここに売り飛ばされちゃったの。」

2組の犬と猫はしゅんと首をうな垂れました。
その日は仕方なく寝ることにしました。

次の日の朝、なにやら騒がしくて目が覚めました。
「お願い!やっぱり返してください」女の人と男の人の声です!
二人が、動物がいる部屋に入ってきました。
「ゴメンな。やっぱりオマエたちを置いて引っ越せない。」
「ごめんなさい。昨日はカーっとなっちゃったけど、私が悪かったわ。」
それぞれの檻に、それぞれ本当の飼い主がやってきました。
二人はお金をペットショップに返して、外に出ました。

男の人が女の人に話しかけました。
「…君の猫と犬、僕の2匹とそっくりだね。」
「ほんとだ…うそみたい。」

4匹は、本当の飼い主の元に戻れてとっても喜びました。

…その2年後、彼らは今度は一緒に暮らすことになるのですが。

end