まち

 其の街の信号機は偏屈で、
或る時突然、全部に明かりを点して動かなくなりました。
そこに居た人々は、どうして良いかわからなくなったので、
みんなは立ち止まって信号が機嫌をなおすのを待っていました。
其れは三日間続いたのです。

 あの夜はどうしても暖かい缶コーヒーが飲みたかったのですが、
夏だったせいか一番近くの自動販売機には冷たいものしかありませんでした。
周りをみると、案外近くにもうひとつ自動販売機があって
そこまで走っていきました。でも、そこにも暖かい缶コーヒーはありません。
また、結構近くに自動販売機を見つけて走っていきました。
そうして自動販売機の明かりを頼りにドンドン歩いていくと、
いつのまにか137個目の自動販売機になっていて、知らない場所に来てしまっていました。

 この角を曲がってこちらにやってきた女性が押しているベビーカーには、
赤ちゃんは乗っていませんでした。
かわりにたくさん、スーパーで買ってきた肉が入っていました。
トリ肉 モモ、ムネ、手羽元手羽先。ぶつ切り。
牛肉 ハツ、牛タン、ミノ、ロース。テール。
豚肉 レバー、バラ、ヒレ、豚マメ。スペアリブ。
そしてミンチも。
全部で5kg。

ああ、あれを組み立てるんだな。納得しました。
三日後、角を曲がってこちらにやってきた女性が押しているベビーカーには、
牛にも豚にも鳥にも似た、赤ちゃんが乗っていました。

街には今日もいろんな事が有ります。
街で起こる出来事に、答えはいりません。

end