ひったくり

クリくんは、ひったくりを考えていました。
オナカがすいてすいて仕方なかったのです。
お金も1円もないし、冷蔵庫のなかにはぬるい空気が入っているだけです。

クリくんはひったくりをすることに決めました。
オナカがすいているだけで、とにかくなにか食べたかったので
少し前を歩いていた人が下げているスーパーの袋をひったくりました。

「あっ!ドロボー!」
とられた人は叫びました。
だけどここはスーパーのようなにぎやかな場所とは程遠いし、
とられた人の服装もスーパーの袋と不似合いの黒いスーツ姿の男性です。

クリくんはひたすらにげました。
通ったことの無い道を一生懸命走って、スーツの人から逃げました。

そしておうちに逃げ帰って、
まだ息をきらせたままで急いで袋を開けました。
その中身は、何重にもスーパーの袋をかさねたお肉のトレーでした。
こんなに守られてる食べ物は、どんなおいしいものだろう。
クリくんはワクワクしながらあけました。

でも、中身をみてがっかりしました。
すこしきらきら光る帯が付いている、紙の束しか入っていないのです。
「なぁんだ。たべものじゃぁないんだ。」
クリくんはがっかりしたけど、とりあえず一生懸命手に入れたものなので
その紙の束を1枚ずつ、全部たべました。

そのころ、スーツの男性は
脱税白書にも載らなかった、1億円分の有価証券のゆくえを
泣きながらさがしまわっていたのでした。

end