ナメクジはヒーローが大好きでした。 いつも噂に聞く、とってもカッコイイヒーロー。 ナメクジはヒーローの事を考えると、幸せになるのでした。 「ヒーローはかっこいいなぁ。 強くて、敵をやっつけて、かっこ良く飛んでいくんだ。 …それにくらべると僕はかっこわるいなぁ。」 ナメクジは小さな水溜まりに自分をうつして悲しみました。 水溜まりのそばには、季節はずれの小さな水仙が芽を出していました。 ナメクジの良いウワサは聞いたことがありませんでした。 その灰色のボディを、そのぬめりを、そのしなやかさを誉めてくれる声もありませんでした。 今日もナメクジはヒーローのことを考えます。 水溜まりで自分の姿をうつして。 急にあたりが薄暗くなって、上からパラパラと白いものが落ちてきます。 「塩だ!」 人間が上からナメクジを怪訝な顔で見下ろしていました。 ナメクジは塩が大の苦手です。あっというまに水分を吸い取られて、 たくさんの水で満たされていた体はしぼんでしまいます。 そうなると、もう命すらナメクジには残されないのです。 「僕がヒーローになれるとしたら」 「”ヒーローを身近に感じさせる弱点”がちゃんとあるところくらいかもなぁ」 人間に踏まれて、季節はずれの水仙は芽を出す前に枯れてしまいました。end |