誰もくちに出しては言いません。
だって、あの人は家族なのだから。
いつも一緒に住んでいる、家族なのだから。

嫌いになれるわけがありません。
いっそ嫌いになれたらどんなに楽でしょう。
でも、嫌っても家族なのだから。

無視をすることも出来ません。
だって家族だし、そこに生きているから。

死んで灰になれなんて思いません。
ただ、石になって欲しいのです。
石になった家族を無視しようと、世間は何も言わないでしょう。

部屋に閉じこもり、あの人は石のように背を丸めます。
でも本物の石でない限り、家族は触れて・撫でてあげる必要があります。

いっそ、石になればいいのに。

ついに誰かがくちに出しました。
ハッ、と同じ事を考えていたみんながその人を見つめます。
ゴロン。

石のように部屋で背を丸めていたあの人が部屋から出てきてみると、
家族はみんな石になって転がっていたのでした。

end