トカゲは急いで逃げていました。 近所の猫が追っかけてきているのです。 こうなったら、尻尾を切って逃げるのが一番の得策なのですが トカゲにはあのときのことが忘れられないのです。 そう、前に尻尾を切って逃げたときのこと。 それはそれはものすごい痛みでした。 死ぬのはコレよりもつらいことなの?と何度も思いました。 痛みが引いても、うまく歩けないことで「次に襲われたら死しかない」とか 「ちゃんと尻尾が生えてくるのか」などの不安が襲ってきたのです。 そのうち、尻尾はちゃんと生えてきたのですが それまでの夜は、眠れないほどの恐怖で震えてばかりでした。 そんなトカゲがまた、「尻尾をきるか・死ぬか」のどちらかを選ばなくてはなりません。 死ぬことは経験したことがありません。 尻尾は切ったことがあります。 尻尾を切ることは凄く怖いことです。切ったあとも恐怖におびえることになります。 トカゲは死ぬことを選びました。 猫の手がすばやくトカゲの体をおさえます。 そのあとは自分がどうなったのかわかりません。 ただ、死ぬことはこんなに痛くて、苦しくて、熱いことだったということだけ感じました。 トカゲが今度「尻尾をきるか・死ぬか」のどちらかを選ばなくてはならないときには、 きっと「尻尾をきる」方を選ぶのでしょう。end |