紙魚は今日も、本の糊を食べてやろうと 古本屋の奥の本にもぐりこみました。 あなたも、本の間から出てくる紙魚を見たことがあるでしょう。 紙魚は糊を食べて暮らしているので、本が大好きです。 もちろんそれは、食料としてですけど… でも、今日は違っていました。 偶然もぐりこんだ本の上を歩いているとき、紙魚はふと足をとめました。 前からうすうす気がついていました。 この黒い線が、どうやら並んで言葉になっているらしいことに。 そして、長い本の間の生活で 紙魚はその文字の配列の意味がわかるようになっていました。 ためしに一文字ずつ、たどっていってみることにしました。 とまりません。やめられません。 なんだかわくわくしてしまいます。 不思議の世界の、魔法の話です。 もちろん紙魚には知らない世界ですけど、魔法の世界は人間だってしりません。 紙魚が読んでも面白いのです。 どんどん、一文字ずつ読んで行きました。 紙魚の体自体、小さくて文字一個分ぐらいしかないので大変なことでした。 でも、ごはんを食べるのも忘れて本を読み続けました。 毎日毎日、一生懸命歩いて読み続けました。そして次のページへ。 また、次のページへ。おなかがすいたら、糊を食べにいきます。 幸せな生活がつづきました。 終わってしまいました。 紙魚は本を読み終わったのです。長い時間がかかりました。 しかし、紙魚は不満でした。 このお話は、1冊で終わってなかったのです。 意味深な引きで終わってました。ああ、続きが気になります。 とりあえず、おなかいっぱいご飯を食べて、久しぶりにゆっくり眠ることにしました。 先が気になってなかなか眠れません。 「あったあった、これ探してたんだよ〜」 古本屋の中に声が響きました。 紙魚の本がグラグラゆれています。 どうやら、誰かにこの本は買われたようです。 紙魚はおびえて、じっと本の"のど"にかくれていました。 …その夜、紙魚はこっそり本から出てきました。 よかった、誰もいない。…、あ! 紙魚は涙がでそうでした。 自分が読み終えて、挟まっていた本の隣に 2巻から続きがずらっと並んでいます。 全17巻。 早速2巻にもぐりこみました。 しあわせで、しあわせでしかたないという足取りで。 end紙魚[しみ] 翅を持ったことのない、原始的なグループに属する昆虫。銀色で、おもに本の糊などを食べてる。 うちでは、専門学校の卒業アルバムに好んでもぐりこんでいる。突然出てきて驚く。 |