営利な刃物

ぼくは一人、公園のブランコにのってユラユラを楽しんでいました。
今日もぼくの英会話カセットテープは、誰にも買ってもらえません。
ぼくには、この仕事はむいていないのかなぁ。
おうちで待っている家族のことをおもうと、ためいきばかりでるのでした。

あたりが暗くなってきました。
もう夕方かぁ。こまったな、ひとつも売れないで帰ったら、また部長におこられちゃう。
途方にくれて公園をみつめていると、一人の魔法使いのようなおじいさんがあらわれました。

「あなたは、魔法使いですか」
ぼくが声をかけると、魔法使いはふりむきました。
「いかにも、魔法使いだが」
「やっぱり!おねがいです、魔法でぼくの英会話カセットテープがたくさん売れるようにしてください」
ぼくは、魔法使いに必死でお願いしました。

「魔法の道具を、おまえにあげよう。」
魔法使いは快く、魔法のちからをかしてくれました。
「”営利な刃物”というお守りだよ。」
魔法使いのふところから、良く切れそうな刺身包丁が出てきました。
「それは、駄洒落ですか?」
ぼくが半信半疑で聞くと、魔法使いは静かに笑いました。
「ただのお守りだけど、不思議なちからがある。これを出してしっかり握れば、お前の願いは、かなうよ。」

魔法使いは去っていきました。
ぼくは呆然と、包丁を握り締めていました。
とりあえず魔法使いの言うことを信じて、かばんにお守りをしまいこんで
もう一度セールスに行くことにしました。

「とても、すばらしい英会話のテープなんです。勉強にやくだちますよ」
お客様の家で、いつものお話をするのですが
「必要ないのよ」としか言ってくれません。
ぼくはとっても切羽詰っていたので、お守りを取り出しました。
そして、お守りを両手で硬く握り締めて、お祈りしました。

するとどうでしょう。
お客様はまるで魔法にかかったように、お金を差し出してきたではないですか。
「ありがとうございます!」
ぼくは笑顔になりました。こんなすてきなお守りだったなんて。

その日、ぼくのテープは3本売れました。
あしたから、たっくさんうってやるぞ。
左手にお守りを握り締め、スキップをして会社に戻りました。

夕闇に浮かぶいくつもの赤色灯が、とってもきれいでした。

end