恐怖の宝箱

ぼくがその箱を手に入れたのは、7歳の夏だった。
田舎のおじいちゃんの家に泊りがけで遊びに行って、
一人で近くの山を散歩していたとき。

ジージーと、せみの声がうるさかったけど
ぼくは日陰を求めて大きな木に寄りかかったっけ。
そのとき、大きな木の少し登ったところに、あながあいているのを見つけたんだ。

ぼくは怖いもの知らずだったから、ただ興味だけでそのあなをのぞいてやろうと思った。
がんばって枝を登って、そこまでたどり着いて中をのぞいたら、
ちいさな箱があったんだ。

思わず箱を手にとって見た。
すると箱はバチッと音をたてて光ったので、
ぼくは驚いて箱ごと木から落ちてしまった。

怪我はなかった。
「大丈夫かい」そう誰かが言うので、
ぼくは答えた。「うん、大丈夫…」…「誰!?」

どうやら声は木からするようだった。
「その箱は、見つからないように私のあなの中に隠しておいたのに。
大変だ、その中にはお前の恐怖がつまってしまった」

「ぼくの、恐怖」
「そうだ。この箱は、最初に手にとった人間のそのとき一番怖いものをコピーしてしまっておくもの。
あけてはならんぞ。恐ろしいものがでてくるに違いない」

ぼくが一番、怖いと思ってるものがこの中にある。
ぼくはおびえた。あんなに恐ろしいものがここからでてくるなんて、考えられない。
「大事にしなさい…箱を手放すことはできないが、開けないようにすれば大丈夫だ」

木はそう言った。気がつけばあたりはうす暗くなっていて、今から帰ると夜になってしまう。
「大変だ!急いで帰らなくちゃ」ぼくは大事に箱を抱えて、急いで家に帰った。
「コラッ!どこに行ってたの、こんな遅くまで!!」家にかえったら、お母さんにひどくしかられたっけ。


それから大分経った今でもその箱は開けていない。
一応、押入れに閉まってあって、年に一度の大掃除で見つけるたびに懐かしくおもう。
この箱を拾ってから、もうすぐ7年かぁ。

半年後…
悲しいことは突然やってきた。
いつも怒ってばかりで、でも、優しくて、ぼくを心配してくれてた母親が亡くなった。

たくさん泣いた。恥ずかしくなんかなかった。本当に悲しかった。
この悲しみを予測もしてなかったし、恐怖とも思っていなかったのに。
…恐怖。ぼくの、幼いころの、恐怖。

ぼくはわすれかけてたことを思い出して、急いで家に走った。
押入れの奥から、ぼくがとりだしたのはあの箱。
「でてこい、ぼくの恐怖」ぼくはフタをそっと開けた。

あの時と同じ、バチッという大きな音。光。風。
ぼくの恐怖が、箱から出てくる。
「コラッ!どこに行ってたの、こんな遅くまで!!」

ぼくは泣いた。もちろんしかられて悲しかったんじゃない。
箱から出てきたのは、少し若い7年前の、幼いぼくの「恐怖」。

end