崇拝用偶像

むかしむかし…その宗教では、偶像崇拝は禁止されていました。
しかし、見えない神だけを信じることは大変難しく、厚い信仰を必要としたので、
神様も「神様一人につき、一つだけなら偶像を作ることをよしとしよう」とおっしゃいました。
国のちからを結集させて、心と魂を込めて神様の形をかたどっていきました。
そして、長い年月をかけて神像を作り上げました。
多神教ですので、全部で神様は377体。
大事に、神殿に祭られることになりました。
その神像を心のよりどころにして、人々は長く幸せに・平和に暮らしていました。

でも最近では、信仰する人も少なくなって、一部の神官だけがこの神像の本当の価値を知るのみになりました。

神像・神殿は歴史的な価値あるものですし、芸術的にも優れたものでしたので、
観光客はたくさん訪れるようになりました。
「触らないでください」などの注意書きを張る必要が出てきました。
もちろん写真撮影も禁止で、フラッシュなどたけばすぐに追い出されるのはわかっていました。
なので、いままで誰も写真を撮影しませんでした。

科学も発達して、デジタルカメラなんていうものが出てきました。
これはフラッシュをたかなくても、ある程度の暗さなら写るので
こっそり神像の写真をとることができるようになってしまいました。
そしてある日、神像の美しさに魅せられた人が、つい写真をとってしまいました。

大事件です。つぎの日は大騒ぎ、
なんと神像が消えてしまったのです。
377体のうち、3体がなくなっていました。
神像は重たいものですし、そんなに簡単にもっていけるはずがありません。

さらにつぎの日、事件はあっという間に解決しました。

もともと偶像崇拝を禁じていた宗教の、たった一つ許された偶像。
写真にとってしまったら、偶像がそこへコピーされたことになってしまいます。
「この画像ファイルは、コピーしても神像は1つにしか出てこないんです。気味が悪くって」
犯人の観光客は悪びれた様子もなく、そう言って神殿に写真を返しました。

神殿の神官たちは、これは大変な事実だと感じました。
そして、これ以上写真をとるものが現れないように、防犯カメラを仕掛けることにしました。
…もうお分かりですね。
神像はすべて、防犯カメラの中にコピーされてしまったのです。

end